タンジェンシャル型没入を仕事に適用する

 では、個人として、マネジャーとして、あるいは企業として、タンジェンシャル型没入の力をどのように活用できるだろうか。

 多くの人々はすでに、私生活を通じて、その効果を直観的に理解している。たとえば、ジムでトレーニングしながら没入できる音楽やポッドキャストを聴くのは、実生活でタンジェンシャル型没入を活用する好例だろう。職場でも、このアプローチが従業員とマネジャー双方に利益をもたらすことは多い。

 単調な事務作業では、多くの従業員が持続性を高めるために、作業用タイマーのようなモニタリングツールを使っている。それ以外にも、マネジャーが従業員のモチベーションを高めるために、特別休暇や賞与などのインセンティブを頼りにすることが挙げられるかもしれない。

 たしかに、このような戦略には一定の効果がある。しかし、筆者らの研究結果を踏まえると、それほど集中力を必要としない作業の場合は特に、タンジェンシャル型没入のほうが効果的だと考えられる。具体的には、書類をファイリングしながらオーディオブックを聴く、デスクを片づけながら動画を観る、封筒詰めの作業をしながらニュース記事を読む、といったことだ。

 タンジェンシャル型没入は、組織の安全衛生の向上を図りたいリーダーにとっても、便利なツールになる。たとえば、従業員が手を洗う時間を長くしたいならば、トイレの鏡に毎日のニュース記事を掲示し、手を洗いながら読めるようにする。同様に、従業員の健康増進を目的として、歩数を競う「ステップチャレンジ」のような取り組みを持続させたいならば、歩きながら聴ける無料のオーディオブックを提供する。

 最後に、プロダクトチームにとっても、このような研究結果を商品設計に取り入れることは有益である。歯磨きの時間を伸ばすためのアプリを開発するならば、筆者らの研究が示すように、単にタイマーをつけるだけではなく、歯磨きをしながら聴けて没入しやすい、2分間に短くまとめた音声クリップの採用を検討してもよいだろう。

 同様に、エクササイズアプリであれば、没入しやすいオーディオブックやポッドキャストをプラットフォームに組み込み、運動しながらコンテンツを聴くようユーザーに勧める。これは、企業と顧客の双方にとってウィン・ウィンとなる。ユーザーのフィットネスレベルの向上に役立つとともに、ユーザーはアプリを長く愛用するようになるだろう。

 詰まるところ、筆者らの研究結果が強く示しているのは、顧客を惹きつけ、維持したいと考える企業にとって、ユーザーの集中力を十分に(ただし、ほどほどに)必要とする活動をセットにして商品化することの重要性だ。これは、チームのアイディエーション(アイデア創出)から営業やマーケティングに至るまで、商品開発のライフサイクル全体に関わってくる。

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 退屈なタスクから逃れることはできない。当然ながら、自分の仕事と人生が、自分自身が夢中になれる活動で満たされるように、できる限りの努力はすべきだ。しかし、私生活においても、職業生活においても、さらには従業員や顧客の生活においても、集中力をそこまで必要としないタスクが幅広く存在すること、そして、それらが重要であることを踏まえれば、そのような行動を持続する方法を見出すことは、誰にとっても有益である。

 タンジェンシャル型没入は、やらなければならない仕事を最後までやり抜き、個人の生産性、企業の成功、そして社会全体のウェルビーイングを高めるために、単純だが有効な戦略となる。


"Research: How to Power Through Boring Tasks," HBR.org, April 28, 2022.