タンジェンシャル型没入は退屈さを和らげ、持続性を高める

 筆者らはまず、簡単な実験によってこの効果を実証した。実験では、タンジェンシャル型没入が、歯を磨く時間に与える影響を測定した。被験者には、歯磨きの時間が長いほど歯はきれいになると説明したうえで、好きなだけ磨き続けるよう指示した。

 歯磨きの間、1つのグループには、音楽や自然音とともに美しい風景の動画を観てもらった。もう1つのグループには、より没入しやすい、クマとオオカミに関するドキュメンタリーの動画を観てもらった。この小さな介入は、大きな違いをもたらした。没入しやすいビデオを観た被験者は、それほど没入できないビデオを観た被験者に比べて、歯を磨く時間が平均30%長かった。

 次に、タンジェンシャル型没入と、前述した持続性を高めるための一般的なアプローチを比較しようと考えた。1つの実験で被験者を3つのグループに分け、それぞれ別の活動を同時に行いながら、簡単な身体運動をできるだけ長く続けるよう指示した。

 第1グループは対照群として、スクリーン上を移動する点を見ながら身体運動を行ってもらった。一方、第2グループはピアノ曲が流れる心地よい水中映像を観ながら、第3グループは没入しやすい物語を読みながら、それぞれ身体運動を続けてもらった。

 その結果、第3グループの被験者は、対照群に比べて10%長い時間、運動を続けた。一方、心地よいが没入しにくい音楽を聴きながら美しい映像を観た第2グループの場合、持続性が高まることはなかった(ただし、楽しさという点において、被験者はこの体験を高く評価した)。

 追加研究では、タンジェンシャル型没入の効果、および進捗状況を確認できる場合の効果を比較した。被験者には、単純なキーボード入力をできるだけ長く続けるよう指示した。進捗状況を追跡するためにタイマーを与えると、入力作業の持続性が高まった。

 このことから、進捗状況の確認は、たしかに有用だと思われる。ただし、没入できるオーディオブックを聴いた場合は、さらに持続性が高まることが明らかになった。

 最後に、2つの追加研究を通じて、このアプローチの限界点がどこにあるかを探った。人間が一度に集中できる時間には限りがある。そのためタンジェンシャル型没入は、2つの作業が集中力のほとんどを占拠し、それらの作業に対する集中力のキャパシティを超えない時のみ、持続性が高まる。

 前述した単純なキーボード入力作業の実験では、没入しやすいオーディオブックを聴いた被験者の持続性は高まったが、やや複雑さが増した類似の作業を行った場合、タンジェンシャル型没入の効果はまったく見られなかった。同様に、没入しやすい物語を読みながら単純な身体運動をすると持続時間が伸びたが、高度な集中力を要する計算をしながら運動しても時間は伸びなかった。