●プレゼンターはデータを羅列するが、ストーリーテラーはデータに人間味を与える

 ナイチンゲールが気づいたように、人間の脳は大きな数字を理解するようにはできていない。理解できる文脈の中に置かれるまで、データはあくまで抽象的なまま認識される。また、人は人のことであれば、理解することができる。

 ある医療機器メーカーの経営陣は、有名なカンファレンスで、新しい脳画像検査装置を発表する準備を行っていた。彼らが筆者に送ってきたのは、その技術が既存のどの機器よりも速く、正確に、患者の状態を診断できると証明するための何百ページにも及ぶ臨床データだった。

 筆者は、こう尋ねた。「人はどこにいるのでしょうか」

 そのデータは技術の有効性を証明するものではあったが、ストーリーを語っていなかった。それができるのは、人間だけだ。

 経営陣と数時間にわたってブレインストーミングを行い、データを「顔」と結び付けることにした。脳卒中や心筋梗塞の疑いで入院した場合、この技術の恩恵を受けることになる典型的な2人の患者「デイビッド」と「スーザン」を中心に、プレゼンテーションを構成したのだ。

 翌年、このプレゼンテーションを行った経営幹部は同じカンファレンスに参加し、彼らが廊下を歩いていると、ある医師に呼び止められて、次のように言われたという。「あなたはデイビッドとスーザンの方ですね。素晴らしいプレゼンテーションでした」。前年に発表したデータはほぼ忘れられていたが、ストーリーは印象を残していたのだ。

 あなたが次に、大量のデータセットを用いて何かを発表する時には、そこに「顔」を添えよう。

 ●プレゼンターは予測可能だが、ストーリーテラーは聴衆を驚かす

 たいていのパワーポイントが退屈なのは、その内容が予測可能だからだ。次のスライドも、そのまた次のスライドも箇条書きの連続だろうと、先が読めてしまう。しかし、優れたストーリーには驚きの要素がある。

 スティーブ・ジョブズが初代iPodを発表した時、彼はその音楽プレイヤーに1000曲の音楽を保存できると聴衆に語った。市場に出ている他の音楽プレイヤーも同じ機能を持っているが、ポケットに入るサイズのものはないとジョブズは説明したのだ。

 そして、マジシャンが自分の帽子からウサギを取り出すかのように、ジーンズのポケットに手を入れ、市場で最も小さいサイズのMP3プレイヤーを取り出した。「1000曲をポケットに」は製品史上、最も象徴的なキャッチフレーズの一つとなった。

 スティーブ・ジョブズは、現代で最も優れたビジネスプレゼンターの一人とされているが、このアップルの共同創業者は、聴衆を魅了する本当の秘訣を知っていた。それは、よく練られたストーリーをさらに引き立たせるプレゼンテーションを行うことだ。

 人の脳は、目新しいことに注意を払う。つまり、紆余曲折や予想外の出来事だ。それまでのパターンを打ち破るものを見つけると、脳は活性化する。

 私たちの創造性に限界はない。聴衆の注目を浴びるために、ポケットから製品を取り出す必要はないが、意外性のある方法で聞き手を驚かすことを考えよう。

 ●プレゼンターは黙って練習するが、ストーリーテラーは声に出してリハーサルする

 ビジネスプレゼンテーションの大半が忘れ去られてしまうのは、話し手がプレゼンテーションではなく、パフォーマンスをしていることを忘れているからだ。優れたプレゼンテーションは、情報を提供し、刺激を与え、人を惹きつけ、そして楽しませる。言い換えれば、その半分はパフォーマンスであり、パフォーマンスの前にはリハーサルを行う必要がある。

 ビジネスマンの多くは、黙々とスライドを切り替えて、プレゼンテーションの準備をする。ストーリーテラーは、実際に声を出してリハーサルを行う。発声の練習を行い、完璧な間合いを加えて、話すペースも変化させる。人前で立って話す場合は、リハーサルも立って行う。着席で行うズーム会議ならば、リハーサルでも着席し、スライドを一枚ずつ切り替えて、本番さながらの練習をすることだ。

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 自分自身をストーリーテラーだと考えれば、プレゼンテーションの見え方もおのずと変わってくる。プレゼンテーションソフトに妨げられることなく、聴衆が熱心に耳を傾ける情報、そして記憶に残る情報を提供しよう。


"What the Best Presenters Do Differently," HBR.org, April 27, 2022.