●プレゼンターはパワーポイントを開くが、ストーリーテラーは物語を編む

 聴衆を惹きつけたいと思うのであれば、ストーリーを語らなければならない。しかし、プレゼンテーションの準備をするにあたり、ストーリーテリングを第一に考える人はほとんどいない。

「プレゼンター」のほとんどは、もっともらしいことを行う。つまり、スライドを開くことから始める。しかし、プレゼンテーションソフトの多くは、ストーリーテリングのツールではない。あくまで「デジタル化された伝達装置」だ。パワーポイントのデフォルトのテンプレートを開けば、タイトルとテキストの入力を要求される。

 箇条書きは、ストーリーではない。ストーリーとは、言葉や絵を通じて語られる、出来事のつながりだ。テーマがあり、注目を浴びる瞬間があり、ヒーローと悪役がいて、満足のいく結末がある。それがストーリーだ。どれだけ素敵なデザインのスライドを作成しても、お粗末なストーリー構成を補うことはできない。

 受賞歴がある映画監督は、カメラに向かう前にストーリーを読んだり、書いたりしている。それぞれのシーンをスケッチしたり、絵コンテに描き出したりして、作品の展開を考える。同じように、優れたプレゼンターはパワーポイントを開くずっと前から、プレゼンテーションの内容にどの要素を盛り込むか吟味しているのだ。

 スライドの作成に入る前に、次の3つのステップを試してみよう。まず、誰かにストーリーを語るかのように、アイデアを書き出してみる。箇条書きで書いたり話したりすることはないので、それは避けよう。箇条書きではなく、名詞や動詞、段落の切り替えや思考の転換を含む、完全な文章を書くのだ。

 次に、ホワイトボード、もしくはまっさらな紙にアイデアをスケッチする「ストーリーボーディング」によって、主要なコンセプトをそれぞれ視覚化する。最後に、動画やアニメーション、グラフィック、写真など、ストーリーに命を吹き込むための素材を集める。

 ●プレゼンターはテキストを使うが、ストーリーテラーは絵を好んで使う

 国際宇宙ステーション(ISS)の船長を務めたクリス・ハドフィールドは、無重力状態でギターを手に取り、デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」を歌い、SNSで大きな反響を呼んだ。地球に帰還した彼のTEDトークは、1100万回以上視聴されている。

「宇宙で目が見えなくなり学んだ事は」というハドフィールドのプレゼンテーションは、ビジュアルストーリーテリングを驚異的なまでに体現していた。パワーポイントは35枚のスライドで構成されていたが、テキストはいっさいない。絵、画像、アニメーション、動画を駆使して、聴衆がほぼ体験することのない世界を紹介した。

 研究によれば、人は情報を耳で聞いただけでは、その内容の10%程度しか思い出せないという。だが、「画像優位性効果」(PSE)と言われるように、耳で聞きながら目で画像を見れば、情報の65%が記憶されるという。

 フローレンス・ナイチンゲールは、パワーポイントが発明される1世紀以上前に、画像優位性効果を理解していた。ナイチンゲールは統計学者であり、数学者でもあった。そして思いやりに満ちた看護師であり、戦傷で死亡するよりも、病院の不衛生な環境で死亡する英国兵が多いのを見て、衝撃を受けた。

 ナイチンゲールは英国当局に対して、状況を改善するための資金援助を求めた際、そのままでは味気ないデータを色分けした図表の形で提示した。彼女は、人はデータやテキストだけよりも、ストーリーや絵に心を動かされることを知っていたのだ。

 聴衆を惹きつけたいと思うならば、自分が語ろうとしているストーリーを補足するために、絵に重点を置いたプレゼンテーションを組み立てる。画像と組み合わせることで、言葉だけの時と比べて、はるかに学習効果が高まるだろう。