仕事の大事な場面で力を発揮する方法

 大舞台を控えたアスリートのように、必要なスキルを身につけ、十分に練習したことを前提としたうえで、プレッシャーを軽減し、プレッシャーに対処する能力を高めるために使えるテクニックがいくつかある。それらを使うことで、最終的には磨き上げたスキルを目一杯発揮し、あがりを回避することも、乗り越えることもできるようになる。

 ●何度も繰り返しその場に立つ

 ゴルフの伝説的プレイヤー、ジャック・ニクラウスは、「頭の中でパットをミスしたことはない」という名言を残している。ある動作(左手を上げるなど)をイメージする時と、実際にその動作を行う時では、脳の同じ部分が活性化される。脳卒中などのリハビリテーションで、運動学習の向上にメンタルイメージが活用されるのはこのためだ。

 スポーツの世界では、テニスのセリーナ・ウィリアムズ、サッカーのウェイン・ルーニー、バスケットボールのマイケル・ジョーダンといったスター選手たちは皆、ビジュアライゼーションを強く信奉している。

 重要な瞬間に過去の成功体験をイメージすることには、複数の利点がある。さまざまなシナリオに備えられるようになり、期待や感情をより効果的に管理できるようになるのだ。ビジュアライゼーションが、体力、精度、持久力を高め、緊急状態での不安を軽減し、コントロール感を高めることを示す重要な科学的証拠がある。

 仕事での大事な瞬間に備える際は、できるだけ鮮明に、詳細に、頭の中でリハーサルを行う。上司のオフィスに行って、昇給を願い出る時の映像や感覚を思い浮かべる。聴衆の前に登場する時、役員室に入る時、ステージに上がる時、あるいはズーム会議に参加する時、照明をどのように感じるだろうか。あなたが最初に口にする言葉は何だろうか。

 ●プレッシャーに耐える練習をする

 スポーツ選手は技術や能力だけでなく、プレッシャーに対処するトレーニングを行っている。2012年と2016年のオリンピックに向けて、英国チームが実施した精神力トレーニングでは、徐々に選手へのプレッシャーを高め、意図的にあがり反応を呼び起こし、それに対処する練習が行われた。

 一流のコーチは、競技における精神的、技術的、戦術的、身体的なストレス要因をつくり出すために、わざと普段の条件を不意に変える。たとえば、利き足が右足のサッカー選手に左足だけで練習させたり、予告なしに強い相手と対戦させたりする。

 水泳のマイケル・フェルプスのコーチ、ボブ・ボウマンは、レース前にフェルプスのゴーグルを踏んで割り、見えない状態で戦わせたことがある。この経験は、2008年オリンピックの200メートルバタフライで、飛び込み直後からゴーグルに水が入り始めた時に役立った。

「150メートルの壁からフィニッシュまで、壁が見えなかった。自分が勝っていると願うほかなかった」。フェルプスは、この試合で金メダルを獲得しただけでなく、世界記録も塗り替えた。

 スティーブ・ジョブズは、プレゼンのうまさだけでなく、練習量の多さでも知られている。リハーサルは、オフィスで一人で行うにせよ、カメラや人前で行うにせよ大切だ。緊張感を高めるために、見ている人に頼んで、わざとじゃまをしたり、否定的なコメントを言ったり、コンピュータの電源を切ってスライドなしで続けざるを得ない状況をつくったりしてもらうとよいだろう。

 ●パフォーマンス前のルーティンをつくる

 テニスの勝負どころでのサーブ、バスケットボールのフリースロー、サッカーのペナルティキックなど、スポーツ選手が重要なプレーをする前に見せる動作や発する一連の言葉など、時に不可解なルーティンには、非常に重要な目的がある。

 テニスのラファエル・ナダルは、30秒ほどかけて12段階の入念なコート・ルーティンを行っていると言われる。NBAのスター、カール・マローンは、フリースローの前のルーティンとして、自分に語りかけることで知られている。

 パフォーマンス前のルーティンは、雑念を払い、その場に集中し、身体に叩き込んだスキルを「自動操縦」させる効果がある。仕事では、呼吸法のほかに、あるフレーズやマントラを繰り返し言う、特定の曲を聴く、お気に入りの茶を飲む、ストレッチを行うなど、短いルーティンを実施することにより、自動操縦が始まるまでの最初の時間を良好な精神状態で迎えられるようになる。

 満足のいくルーティンが出来上がったら、必要な時にそれをいつでも実践することで、築いてきた知識、技術、行動を呼び出せるようになる。また、ミニルーティンもつくっておき、自分があがっていると気づいた時に頼るとよいだろう。