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仕事で重要な場面を迎えた時、プレッシャーで身体が硬直し、期待するような成果を上げられなかったという経験をしたことはないだろうか。このような「あがり」を予防したり、あがった時にうまく切り抜けたりするためには、マイケル・フェルプス、ラファエル・ナダル、ウサイン・ボルトなど、世界の一流アスリートが実践しているテクニックが参考になる。本稿では、あがりを克服する6つのテクニックを紹介する。


 深い専門知識や長年の経験があるにもかかわらず、肝心な時に身体が硬直してパフォーマンスが低下する「あがり」は、スポーツの世界ではよく知られている。しかし、仕事で起こる日常的なあがりが取り上げられることは少ない。

 ほとんどの人が、自分があがりを経験した瞬間を思い出せるに違いない。重要な顧客や上司、人前で話す時に、声が出なかったり、考えがまとまらなかったりしたことがあるだろう。

 あがりとまったく無縁な人はいない。たとえば、弁護士として活動したマハトマ・ガンディーも初めての裁判ではあがり、「屈辱のあまり法廷から逃げ出した」という。仕事での「あがり」を防ぐために、スポーツ界で確立された技術は、マネジメントの世界にも応用できる。

「あがり」の科学

 人が「硬くなる」時、身体は外部環境の何かに対して脅威反応を起こしている。その「何か」に当たるものは、人それぞれだ。仕事では、難しい会話、交渉、書類の山、あるいは人前でのスピーチなどがそれにあたるだろう。

 あがりという現象は、生理的には、身体が危険から身を守るモードに入り、コルチゾールやアドレナリンなどを含むストレス関連ホルモンが分泌された状態を意味する。それによって呼吸と心拍が上がり、瞳孔が開き、場合によっては汗をかく。

 人は脅威を感じるとワーキングメモリーが低下する。つまり、新しい情報を理解して行動することが難しくなり、ネガティブな感情体験を思い出し追体験しやすくなり、自然にできるはずの行動を意識し、考えすぎるようになる。

 あがりによって、その瞬間のパフォーマンスが低下するだけでなく、自信喪失、恥、罪悪感、恐怖の悪循環が起こるため、あがりを繰り返す可能性が高くなり、リスクを取ろうという気持ちに制限がかかる。カヌーのオリンピックチャンピオン、ルネ・ホルテン・ポールセンが経験したPTSD(心的外傷後ストレス障害)のように、長期にわたりメンタルヘルスに影響を与えることさえある。

 人が最もあがりやすいのは、個人の対処能力を超えた要求やプレッシャーが外部からもたらされた時だ。めったに発生しない、リスクの高い事態が起こった場合などである。

 サッカー選手にとって、ペナルティーキックの「練習」は比較的簡単かもしれないが、ノックアウトステージの大会(ワールドカップの決勝など)では、リスク(チームの将来や運営資金がかかっているなど)と希少性(この1回のチャンスしかないなど)が大きく高まる。また、プレッシャーは増さなくても、不安を覚えたり自分の能力を疑いだしたりするなどして対処能力が低下すれば、あがりは起こる。

 困るのは、要求と対処能力のバランスが、まったく無意識のうちに崩れることだ。つまり、自分では覚悟ができていると思っていても、無意識の脳はそう思っていない場合があるのだ。