HBR Staff/Nittaya Singhaseri/Getty Images

ロシアのウクライナ侵攻により、グローバルサプライチェーンの混乱が加速している。1990年代、アウトソーシングやオフショアリング、リーン生産方式といった戦略に基づき、生産拠点の国外移転、すなわちリショアリングが進められてきた。世界金融危機以降、グローバル化によるリスクが顕在化したことで国内回帰が叫ばれる機会はあったが、いずれも劇的な転換には至っていない。今回のウクライナ戦争によって、調達や輸送手段を含むグローバルリスクがあらためて浮き彫りになったといえる。本稿では、さまざまな業界に見られる国内回帰の最新動向を取り上げ、リショアリングに関する問題を論じる。


 ロシアのウクライナ侵攻と、それに伴う対ロシア制裁、そして新型コロナウイルス感染症の再拡大を受けて中国で再び実施された封鎖措置は、グローバルサプライチェーンをさらに揺るがすことになるだろう。

 これらの問題は、米中貿易戦争、その他のパンデミック関連および気候変動関連の混乱と相まって、欧米企業が部品や製品の調達で中国への依存を減らし、輸送手段や原材料の調達でロシアへの依存を減らす動きを加速させるに違いない。それに代わり、自国や自地域からの調達戦略をより積極的に講じることになるだろう。ウクライナ紛争で中国がロシアに対する支援を決断すれば、そのような動きがいっそう加速することが予想される。

 1990年代、企業はアウトソーシングやオフショアリング、リーン生産方式といった戦略を追求して、コストを削減し、市場でのポジションを維持し、競争優位を確立しようとした。当時、有力な生産拠点として台頭したのが中国だ。世界に門戸を開放するようになった多くのアジア諸国を含むグローバル市場に、さまざまな製品を供給するようになった。

 その状況が変わり始めたのは、2008年の世界金融危機の後からのことだ。2008年に原油価格が大幅に上昇したこと、そして2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行に始まり、2011年の東日本大震災とタイ洪水に至るまで、自然災害が相次いで発生したことによって、産業界のリーダーの認識が変わった。

 1990年代に採用した戦略をそのまま継続すれば、オペレーション上の問題が生じるリスクが増し、自然災害に効果的に対処する能力が損なわれる可能性があることに気づいたのだ。

 このような新たな認識の下、多くの企業は自国や自地域での生産を増やし始めた。グローバルリスクを軽減することが狙いだ。また、ローカル市場の要求に迅速に対応できるようになることも期待された。

 とはいえ、生産を中国やその他のアジア諸国に依存することには大きな利点があり、アジア市場も急成長を遂げていたことから、転換は劇的なものとまでは言えなかった。

 実際、データを見ると、2014年から2018年の間に、中国の製造業生産高が21%増加したのに対して、米国の製造業生産高は13%増に留まった。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まる直前の2019年時点で、世界の製造業生産高に占める割合は中国が28.7%、米国は16.8%だった。

 しかし、この4年間は米中貿易戦争、そしてパンデミックと気候変動によるサプライチェーンの混乱により、サプライチェーンのローカライゼーションは一気に加速している。

 実際、2020年1月に3000社の企業を対象に実施された調査によれば、米中貿易戦争をきっかけに、半導体、自動車、医療機器をはじめ、さまざまな業界の企業が、サプライチェーンの少なくとも一部をそれまでの場所から移転した、あるいは移転を計画しているという。北米では、グローバルセクターの企業のほぼ半数が「リショアリング」(生産拠点の国内回帰)を行う意向を明らかにしている。