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市場が急速な変化を遂げる中で、組織として最適な意思決定を下すためには、実験を繰り返すことが欠かせない。実際、多くの企業がテストを行っているが、その目的が不明瞭なまま着手し、結果の判断基準も設定されていないがゆえに、組織の意思決定にインパクトをもたすには至らない。本稿では、ビジネスの実験を成果につなげるために、マネジャーが何を意識し、どのように行動すべきかを論じる。


 ほとんどのマネジャーは問いを立てることに長けているが、それらの問いに対して、何が実現可能な答えとなるかを特定するのは、それほど得意ではない。テストを行い、その結果から学びはするが、その結果が継続的な会話と組織変革を促すことはめったにないのだ。

 実験はイノベーションを促進するが、時間とリソースを奪うこともある。社内での実験を生産的な活動にするためには、いくつかの要件を管理しなければならない。実験から何を学ぶのか、学んだことをどう活かすのか、学習によって生じた機会、そして何より、実験結果に関する同僚たちとの会話――これらが、組織の意思決定にインパクトを与えられるようにすることが重要だ。

 本稿では、実験を行うために必要な要件を詳述する。ここには、絶えず変化するビジネス環境でテストを行う際の重要な留意事項は何か、どのデータをテスト対象にするのか、意思決定のためにどのような基準を設けるべきかが含まれる。

ビジネス環境におけるテストとは何かを理解する

 新しい製品や価格やサービスのテストは、仮説を厳密に検証できる医学の臨床試験と似たようなものだと考えるマネジャーは多い。しかし、ビジネスにおけるテストは、ほとんどの学術研究や医学研究とは質的に異なる課題を伴う。

 競争市場でランダム化比較試験を実施できる機会は少ない。コントロール不能な天候の中で、大海原を航海しながら、船の修理を迫られるのが通常だ。ビッグデータと人工知能の時代には、特にそうだといえる。

 場合によっては、当該テーマに関する既存のデータと文献を参考にすれば、テストの実施は不要か、あるいは実施しても経営にほとんどインパクトを及ぼさないかもしれない。

 ある有名な小売企業は、デジタル戦略を策定する際に、既存の研究を参考にしなかった。その中には、約100万人の顧客による700万件以上の購入を対象に、チャネル横断的な消費者行動を調査し、公表されて査読を受けた研究などもある。

 同社は、すべてのエビデンスが「自分たちが直接入手した」データに基づくことに固執し、6つの自社拠点でテストを委託した。これにより意思決定と実際の行動が8カ月延期され、エビデンスは何一つ得られなかったうえに、旧来のバイアスが助長される機会が多く生じた。その間、競合他社はマルチチャネル施策を開始しており、同社の成長を妨げることになった。

 マネジャーはテストに内在する機会費用を考慮し、それに合わせた方法論と範囲を調整する意思を持つ必要がある。あるB2BのSaaS企業では、次のようなエビデンスが提示された。従来は収益性の低かった顧客セグメントの購買行動が変わり始めたことで、比較的小規模なマーケティング投資でこの変化を加速できる、というものだ。

 しかし、積年の損失が大きな懸念となっていた。そこで意思決定者らは、社内の不信を払しょくすべく、実験の期間、サンプルの規模、実施の方法論に高いハードルを設けた。当該セグメントで新施策の投資利益率をテストするには、はるかにシンプルな方法を採用できたにもかかわらず、である。この大規模なテストは、およそ5倍もの費用と、急速に変化する市場で行動の遅れをもたらすという代償を伴った。

 経営上すぐに実行できるテストが、「科学的な」結果を生むことはめったにないが、それでも洞察と選択肢をもたらすことはできる。テストの目標は、変わりゆく市場環境の中で意思決定者らに適切な会話を促すことであり、永遠の真理を明らかにすることではない。未来に答えを見つけるために投資しながら、いまは使えるものを使おう。