ビジネスパーソンはもちろん、学生や研究者からも好評を博し、11万部を突破した入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』。入山氏がこの執筆過程で感じたのが、世界の経営学とはまた異なる、日本の経営学独自の豊かさや面白さであった。本連載では、入山氏が日本で活躍する経営学者と対談し、そこで得られた最前線の知見を紹介する。連載第6回では、国際経営が専門の大木清弘氏に登場いただく。前編では、工場などの現場を仕切るマネジメント職やライトブルー人材の研究について、入山氏が迫る。(構成:藤田美菜子)

『世界標準の経営理論』の読み方

大木 清弘(おおき・きよひろ)
東京大学大学院 経済学研究科 准教授
2007年東京大学経済学部卒業。2008年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。2011年東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2012年東京大学博士号(経済学)取得。関西大学商学部助教。東京大学大学院経済学研究科講師を経て、2020年より現職。著書に『多国籍企業の量産知識』(有斐閣)、『コア・テキスト国際経営』(新世社)などがある。

大木:『世界標準の経営理論』、改めて拝読しました。おべっかは一切なしで、「感じ入った」というのが正直な気持ちです。何よりもまず、入山先生の「経営学を社会に還元したい」という熱い思いが伝わってきました。

 この本に書かれていることが、これから経営を論じる際のスタンダードになっていく。そのベースラインをつくられたという意味で、非常に価値ある1冊ですし、ビジネスパーソンに理論を説明する際にも重宝するだろうと思います。

入山:ありがとうございます。嬉しいですね。

大木:もうひとつ、私はこの本をぜひ学部生に読んでほしいと思っているんです。

 実は、学生にゼミ論を書かせる前に、この本を読んでもらえばよかったと、ひそかに反省しているところです。というのも、学生は興味のあるテーマを見つけてくることはできるのですが、いざ論文を書くとなると、どんな切り口でそのテーマを見ればいいのかがわからないんですよ。

 そのとき、私は自分でヒントを与えてしまったんですね。「経営者の切り口なら、アッパーエシュロン理論[注1]じゃないの」とか「SDGsみたいな話なら、よく言われるのは制度理論[注2]だよ」とか。でも、この本を読んでもらってから、どの理論をベースに語ればいいかというところまで学生に考えさせていたら、ものすごく学習効果が高かったのではないかと思います。

 なんなら、学部の1年生からでも使えるかもしれません。例えば、ディズニーランドの成功の理由を知りたいという学生がいたら、ディズニーランドの何が知りたいのかを、この本を参考にしながら考えてもらう。そして、その項目を皆で輪読してから、その切り口でディズニーランドを分析してみる。こうしたアプローチは非常に教育効果が高いと思うので、来年度の授業から取り入れようと、今真剣に検討しているところです。

今こそ「理論」を学び直そう

入山:おっしゃるとおり、理論の切り口があると考えも深まるし、論文も書きやすい。なのに、意外と指導教官も理論を知らなかったりしますよね。

大木:本当にそうなんです。われわれ大学教員を含め、日本で経営学を学んだ人間は理論に弱いところがあるので、この本で勉強し直すべきだと思いますね。

 私自身もそうなのですが、日本の研究者は「既存の研究にこの変数を入れたらこうなるだろう」といった仮説のつくり方をする傾向があり、理論にエッジを立てるという発想に欠けるところがある。その部分が、海外ジャーナル(学術誌)に論文を出すときにはじかれてしまう1番の理由ではないかと私は思っています。

入山:それは間違いないでしょうね。

大木:その際に『世界標準の経営理論』のような本があると、例えば「今回はこの理論でいこう」と、1つ軸を持つことができる。そこから既存研究の穴を見つけて仮説をつくっていけば、ぐっと発信もしやすくなるだろうと思います。

 その意味で、こうした本を書いていただいたのは本当にありがたいこと。正直、フリーライドしているのが申し訳ないくらいの気持ちです(笑)。