『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)の最新号(2022年4月号)の特集テーマは「デジタルディスラプションに立ち向かう 成熟企業の競争戦略」です。破壊的変化の波に飲み込まれないようにするための戦略の一つに「両利きの経営」があります。『世界標準の経営理論』の動画連載をヒントに考えてみます。

日本企業に足りない「知の探索」

 DHBRの連載をまとめた『世界標準の経営理論』は発売以来、おかげさまで発行部数が11万部(電子版を含む)を超えました。

 本書は800ページを超える専門書ということもあり、その心理的ハードルを下げようと動画連載を行っています。著者である早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授自らが白板の前に立ち、掲載した経営理論を1章ずつ講義形式で解説する内容です。

 多忙な入山教授のスケジュールを確保するのは簡単ではありません。撮影現場では時計の針が深夜0時を回ることもよくあります。そのような日でも、入山教授の情熱とエネルギーは衰えることなく、現場のスタッフをも奮い立たせて撮影を続けています。

 私自身、その聴講を通じて数え切れないほどの気づきがありました。印象深かったのがROE(自己資本利益率)を軸に語ったイノベーションの回です。少しご紹介します。

 入山教授はシーメンスやウォルマートなど長らく高収益を続けてきたグローバル企業と日本企業とを比較し、その差を2つの経営理論から解き明かします。1つ目が「知の探索・知の深化の理論」です。

 知の探索とは、自社の認知を超えてなるべく遠く離れた知を追い求める活動です。たとえば、PoC(概念実証)や新興企業への出資などは、1件あたりの投資費用を抑えることができるため、数多く行うの「実験」ができます。

 そのほとんどが失敗しますが、「やがて当たるものが生まれるので、そこで一気に追加投資をして『知の深化』に振ればよい」(入山教授)のです。

 知の深化とはある特定の分野の事業を深掘りし続ける活動を指します。「カイゼン」の言葉に代表されるように、伝統企業の経営は、知の深化にベクトルが偏っているため、知の探索を意識的に行うことが欠かせません。「両利きの経営」と呼ばれるのもそのためです。

 入山教授によると、ROEを20%以上維持するような高収益企業は、安定しながらも成長の見込めない事業や会社のビジョンと合わない事業を躊躇なく売却するそうです。それを知の探索のための原資にして事業を生み、知の深化によって次なる事業に育てて、持続的に成長してきたのです。