デジタル技術を武器に次々と参入する新興勢に既存企業はどう立ち向かえばよいのでしょうか。そこで『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2022年4月号では、「デジタルディスラプションに立ち向かう 成熟企業の競争戦略」と題した特集を組みました。

既存企業はそこまで淘汰されていない

 デジタル技術を武器に新規参入した企業の攻勢を受けて、既存企業が市場から撤退する事例が相次いでいます。

 アマゾン・ドットコムは中小の小売事業者を苦境に追い込み、ネットフリックスは大手レンタルビデオチェーンを経営破綻に追いやり、シェアリングサービスのウーバーやエアビーアンドビーが既存の商習慣を変えました。こうした新興勢による「デジタルディスラプション」に既存企業は立ち向かっていかなければなりません。

 しかしながら、特集第1論文「デジタルディスラプションとの戦い:既存企業の生存戦略」によると、この見方は単純すぎるようです。「フォーチュン500」のデータからは、1995年に存在しなかった新興企業のうち売上高の上位500社にランクインしたのは、わずか17社にすぎませんでした。

 それ以外は、インターネット革命が始まる前に存在していた企業が生き残っていたのです。そこで筆者はデジタルディスラプションを生き抜いてきた既存企業の戦略を分析し、新興勢と戦ううえでの4つのアプローチを紹介します。

 特集第2論文は「企業の『伝統』を競争力に転換する方法」です。三菱商事にもいたトーマス・マルナイトIMD教授らは、既存企業が競争優位をもたらす3つのケイパビリティを特定しました。

 それは、複雑さをマネジメントする能力と長期的な視座を維持する能力、信頼できる顧客との関係を活かして隣接領域に進出する能力です。既存企業の持つ歴史や規模を弱みととらえず、むしろそれらを活かして新興勢力と戦う手段を提案します。

 一方、新興企業が予想よりも早く成長し、既存企業の意思決定が遅れて市場撤退を余儀なくされるケースがあります。その多くは、迫り来る危機に気づいていたにもかかわらず、社内外への説得材料を集めることに時間をかけすぎたことが要因です。

 組織変革のタイミングを逸することなく、「限られた情報で変革を促す方法」を特集3本目で論じます。執筆陣は、クレイトン・クリステンセン教授の設立したコンサルティングファーム、イノサイトのメンバーです。

 日本企業の中にも、長年にわたり危機的変化と立ち向かってきた企業があります。そうした企業はどのような戦略を実行してきたのでしょうか。

 特集4本目では、グローバル建設機械メーカー・コマツの小川啓之社長兼CEOにインタビューしました。コマツには、危機的状況に直面するたびに成長してきた歴史があります。

 いま製造業において大きな課題である脱炭素や中国の台頭、デジタル化などに対しても、小川社長は「コマツは全員経営で危機を価値創造のチャンスに変えていく」と力を込めます。その戦略は、品質と信頼を100年にわたり追求して「違い」をつくってきたことにあります。

 特集5本目は、NECの経営再建を果たし、2年連続で過去最高益をもたらした森田隆之社長兼CEOのインタビューです。

 タイトルの「NECの存在意義を問い続け、世界に誇る技術力を価値に結び付ける」が示すよう、NECは創業以来およそ120年培ってきた「資産」を価値に転換する挑戦を続けています。そこには「破壊」から逃れ、生存と繁栄をするためのヒントが詰まっています。

 このように、成熟企業の競争戦略についてまとめましたが、対象は大企業に限りません。中小・中堅企業の方々にも、きっと多くの気付きがあるはずです。ぜひご一読ください。

(編集長・小島健志)