「思い込み」からの脱却に必要なデータ活用と試行錯誤による検証

山口  「自己マスタリー」については、デジタルを活用することでみずからテスト&ラーンが可能になり、その結果として得られるデータを分析すれば、いかに自己変革が必要かを自分で納得できるようになると思います。

ピーター・M・センゲ
Peter Senge
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院・上級講師、組織学習センター長。組織学習、リーダーシップ開発、システム変革の先端的な研究を進め、組織学習協会(SoL)、アカデミー・フォー・システム・チェンジなど、理論、手法、実践方法の発展を目指す組織やネットワークの設立に尽力してきた。200万部以上を売り上げた『The Fifth Discipline(邦題:最強組織の法則)』はフィナンシャル・タイムズ紙に「最重要の経営書5冊」のうちの1冊と認められ、「学習する組織」という概念はハーバード・ビジネス・レビューに「過去75年間に登場した巨大な影響力を持つアイデアの1つ」と評価されている。また、ザ・ジャーナル・オブ・ビジネス・ストラテジーが選出する「20世紀のビジネス戦略に最も大きな影響を与えた24人」に名を連ね、シュワブ財団の2019年「ソーシャル・イノベーション・ソートリーダー」賞を受賞している。

センゲ より適切なデータを入手できればより的確な現状把握が可能になり、自分でテスト&ラーンできる、というのはいい指摘ですね。ただこの場合も、データをいかに解釈し、それをチームとしてどう改善していくかが重要だと思います。

山口  「メンタルモデル」についても、データの活用と、試行錯誤による検証を重ねれば、「思い込み」という慣れ親しんだ安住の地から脱却する契機になるのではないでしょうか。

センゲ 私もそう思います。低コストで多くのデータが獲得できるようになると、試行錯誤が容易になり正しい判断がしやすくなる。しかし、それですべてが解決するわけではありません。多くの場合、古いメンタルモデルに固執する理由は論理ではなく、「それが心地よいから」なのです。

 注意すべきなのは、それが非論理的な社会システムや政治システムのせいばかりではないことです。極めて論理的なはずの科学の世界でも同様で、優秀な科学者でも自説の反証となるデータにはいろいろな理由をつけて実にうまく否定してしまう。「科学は葬式のたびに進化する」ともいいますね。

 自分と異なる物の見方を受け入れ、かたくなに握りしめている古いメンタルモデルを安心して手放すためには、やはりリレーショナルフィールドの質が極めて重要だと思います。

山口  「共有ビジョン」は、デジタルにかかわらず、事業成功のために必要なものだと思います。「チーム学習」も、デジタルの活用によって時間と場所を限定せず、多様な人財とチームワークができるようになっています。

センゲ はい。テクノロジーによって、時間と場所を超えてビジョンを共有できるようになっていますし、組織の階層構造が崩れてフラットに近づくと、チームの重要性はますます高まります。この2つのディシプリンは、テクノロジーが、分散型のインタラクティブ空間をどんどん実現することで、さらに豊かになっていくでしょう。ただし同時に、内省や深い対話をサポートするようなツールや方法論を活用していく工夫も必要になると思います。

山口 その通りですね。私はこのデジタル化時代の企業経営において、まさに先生のおっしゃる5つのディシプリンは素晴らしいフレームワークになると考えています。