本連載の第2回では、デザイン経営の実践に必要な組織と人材について説明した。連載最終回の第3回では、二つの要素が機能するためには自発的に発言行動しやすい環境、自由な発言を許す雰囲気・風土をつくること、すなわち「場」をつくることが重要である点について説明したい。

 デザイン経営を実践する上で「場」づくりは重要な要素になる。デザインの基本的な考え方は、0から1をどう生み出すかという視点で、正解がない問題に取り組むことである。“ユーザーの声”はあくまで参考にしながら、自らの頭で解を生み出さなくてはならない。正解の無いものを組織で考えるという点において、役職や立場が上の者の意見が正しいという関係は成り立たない。誰もが正解を導く可能性をもっている。したがって、経営者やマネジャーなど組織をリードする立場の人は、組織内の誰もが自由・平等に発言できるように組織を運営しなくてはならない。

 議論をする上では「正しい・正しくない」の軸ではなく、誰もが「創造」するという軸で、自らの考えを表明していく必要がある。自身の行動や意見を受け入れてくれる「場」があれば、組織のメンバー誰もがのびのびと発言ができるようになり、業務を自分事化できる。社会経済状況・市場トレンド・ユーザーニーズは常に変化しているため、ストーリーを共有する社員それぞれが機動的に動き、自社のケイパビリティとユーザーニーズを則座に合わせて事業を生み出す柔軟性が不可欠である。

 この点での好例として、リクルートが挙げられる。リクルートには「よもやま話」という気軽に話す時間を取れる「場」が伝統的に根付いている。社内で「よもやま話」がしたいと誰かに声をかけると、部署や上下関係を超えて知らない相手でも気軽に話す文化が醸成されており、相談内容は業務に関わる話から個人のキャリアに関わる話まで多岐に渡る。リクルートでは、新規事業提案制度「Ring」を中核に、多くの事業を生み出してきたが、現場社員が、自発的に社内各所の社員との「よもやま話」でアイデアを磨き上げる環境があることも、リクルートが新たな事業を次々と生み出せる理由の一つになっていると考える。

 もう一つの事例として、丸井グループが挙げられる。丸井グループは顧客と共創する「共創価値」経営を推進しており、2016年にオープンした博多店は、初の共創によるライフスタイル型次世代店舗である。約2年に渡り1万5000人以上の顧客と600回以上の企画会議を重ね、「自分にピッタリが見つかるお店」というコンセプトで作られた。九州オリジナルの商品・サービスの提供を多くし、従来は6割を構成するアパレルカテゴリーの売場を3割に減らしてライフスタイルカテゴリーの売場を7割に増やすなど、顧客を巻き込み誰もが自由に発言できる「場」によって、新しい店舗スタイルを実現している。共創を理念として掲げ浸透させたことにより、社員の共創に対する意識が高まり、お客様に寄り添い「対話」することを重視した結果が、この「場」の在り方に繋がっている。

 マズローの欲求五段階説の上層に承認欲求と自己実現欲求があるように、人は誰しも他者から認められ、自らやりたいことを自発的に行える状態を求めている。定量数値化しにくい、組織が何を価値と捉えていて、どういった未来をつくるために存在しているのか、らしさや風土・文化、空気感など暗黙知的に捉えられているものをしっかりと伝え、社員全員が自ら考え行動できる「場」をつくることが、社員にとっても企業が「好きな組織」となることに繋がる。