日本の大企業の多くが、成熟期を経て、次の成長を模索している。そのための企業変革が久しく求められつつも、実現できていない。パーパス(企業の存在意義)をテコにする施策が新たな指針となりそうだが、具体的な道筋は見えていない。そこで本稿では、現実的な変革策として、「デザイン経営」を提示したい。ソニーやコニカミノルタなどの成功事例を基に、その要諦を3回にわたる連載で紹介していく。


 いま、企業経営において、パーパス(企業の存在意義)が注目されている。商品の機能や価格による差別化が容易でない今日、「選ばれる」企業になるためには、自社が社会に存在する意義を明確にする必要があるためである。

 パーパスの明確化は、顧客・消費者、投資家、社員など、あらゆるステークホルダーに対して自社の存在意義を表明するものである。人々が共感するパーパスを掲げる企業は、投資家から資金を得やすく、志を共にする意欲的な人材が集まり、付加価値の高い商品を生み出すことができ、それによって収益を上げられ、さらなる投資を呼び込む……というように正のループを回すことができる。

 最近の成功例として認められているのが、ソニーだ。吉田憲一郎社長が就任直後に取り掛かり、全世界の社員から募った意見を基にマネジメントチームと議論を重ねて決めた「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)は、社内外のステークホルダーに対して強い求心力を発揮している。このパーパス策定による効果は、近年のソニーの好調な業績にも影響していると考えられる。

 ここまではすでに多くのメディアや識者が論じている。本連載で紹介し、解説したいのは、パーパスを核に、企業を変革していくための具体的な活動や手法にまで踏み込む「デザイン経営」である。

 ところで、デザインとは何か。その定義は様々あるが、公益財団法人日本デザイン振興会では商品や事業、プロジェクトを生み出す目的のための計画そのものを「デザイン」としており、「色や形、技術や機能は、その目的を実現するための手段のひとつ」と位置づけている[注1]。そして、長年の研究の答えとして、そのデザインの中心に「ヒト」(時に「ユーザー」や「社会」として語られる)が存在すると結論づけている。その上でデザインを、「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する」一連のプロセスと定義している。

 これを本稿で述べる「デザイン経営」、すなわち、企業活動におけるデザインに当てはめると、「ヒト」はコンテンツの送り手と、受け手と捉えることができる。企業と社員が送り手/受け手となる場合や、社員とユーザーが送り手/受け手となる場合など、パターンは様々であるが、送り手の意図を汲み取り、受け手への洞察をもとに、最も効果的な方法でその間をつなぐ。その実践ができる存在として、デザインが機能している。

 これを踏まえてパーパスとデザイン経営の関係性を示すと、企業が、パーパスというコンテンツをステークホルダーに浸透させ、その結果として全てのステークホルダーが能動的に動いていく。その働きかけができる手法が、デザイン経営である。

 ソニーは、61年前の1961年時点ですでにインハウスのデザイン部門(現 クリエイティブセンター)を発足していた。同部門は、社内においてプロダクトデザインやブランディング、新しいビジネスや体験づくりだけでなく、経営が社外にメッセージを打ち出していくシーン等、企業と社会のタッチポイントにおいて企業の思いをストーリーとして伝え、コーポレートに貢献する役割を担う。

 例えば経営方針を外部に発表する資料にも、ドラフト段階からデザイナーが関わっているという。財務や経営層と日頃から密に連携しながら、自社の想いをどう外部へと伝えていくか、デザイナーがチームメンバーとして参画して考えているのである。ソニーがデザイナーを、経営を担う1つの重要な役割として位置づけていることが伺える。

 他方、デザインを決して特別なものとして捉えていないこともまた、ソニーの特徴である。吉田社長は前述のパーパスにおいて、経営の軸として、「感動」とその主体である「人」を掲げ、事業の構造改革や新規投資判断にもこれらの軸を結びつけている。現場では他がやっていないことをやってみる、チャレンジを推奨する風土があるというが、自社の方針に共感しながらも、社員が自分自身で判断し行動をしていく、いわゆる「能動的に動く」組織づくりがなされている。デザインが至るところで機能し、企業(経営層)から社員へ、そして社員一人ひとりから社外のステークホルダーへと、ソニーが描くストーリーが共有されているのである。

 ソニーは2020年4月、自社のインハウスデザイン部門であるクリエイティブセンターからソニーデザインコンサルティングを子会社として設立し、本格的に外部企業へのサービス提供を開始すると発表した。経営戦略の可視化やデザイン組織のマネジメント等、いわゆる企業経営の中枢に近い領域への支援も行うという。

 背景としては、世の中全体で、デザインを変革のドライバーとしたいというニーズが広まり、その需要に先進するソニーが呼応したということが考えられる。成熟期を経て次の成長路線を模索する日本企業の多くは、久しく変革が求められつつもその実現がかなわなかったが、デザイン経営は変革の成果を出しやすい手法として受容されつつある。