ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のリンダ A.ヒル教授が2021年6月、全日本空輸(ANA)の新規プロジェクトを、HBSのケーススタディの教材として著した。本稿では、リンダ教授や登場人物をインタビューして、そのユニークなケーススタディの概要や狙いなどについてリポートする。


 筆者は2006年から10年間、HBS日本リサーチ・センターで、同校の教授陣が日本に関するケースの作成や研究を行う際のサポート役を担ってきた。HBSの個性と才能あふれる多くの先生と働く機会を得たが、ヒル教授からは特に大きな感銘を受けた。

 ヒル教授はインタビューをする際、まさに全身で耳を傾ける。自分の研究の話をする時には、"Emily and I"というように、一緒に研究をやっている若いリサーチャーの名前を必ず先に挙げる。その後の主語はすべて "I"ではなく "We"。日本にいるHBS卒業生向けの特別講義では、誰が何を言ったかをすべて記憶し、発言した人・内容をその後の議論の流れの中でフォローしていた。

 彼女と一緒にいると、自分がちゃんと彼女に見られ話を聞いてもらっていると感じ、だからそのままの自分でいられる。そしてふと、「そうだ、先生はリーダーシップ研究の世界的権威だった」と思い出して恐縮するのだが、彼女のあたたかさの前にまたすぐ素の自分に戻ってしまう、という感じであった。

 ヒル教授が書いた最新のケースが "Akira Fukabori and Kevin Kajitani at avatarin"(「アバターインの深堀昴と梶谷ケビン」)だ。アバターインは、全日本空輸(ANA)の社員だった深堀昴氏と梶谷ケビン氏が立ち上げた、アバターを新たな社会インフラとして広げることを目指す会社である。

 なお、ケースとはある組織や人についての物語である。HBSではほぼ全ての授業において、学生は事前に指定されたケースを読み、教授のファシリテーションのもとケースを議論することで学ぶ。つまりHBSのケースになるということは、世界中から集まるHBSの学生、企業幹部向けプログラムに参加する企業幹部らが考え学ぶ教材になる、ということを指す。まずは、ケースの題材となるアバターインについて説明したい。