Leonard Mc Lane/Getty Images

リーダーがデジタルトランスフォーメーションに取り組もうとする時、「デジタル」という言葉にばかり目を向けて、本質を見失うことが少なくない。つまり、自社に必要な「トランスフォーメーション」とは何かという視点である。本稿では、エンタテインメント業界を長年支配してきた大手映画会社が、新たなデジタル技術の脅威に対峙し、ミッション主導の変革を成し遂げた例を取り上げながら、デジタルトランスフォーメーションを理解するための2つの特性を提示し、映画業界の成功から学ぶことができる3つの教訓を論じる。


 デジタルトランスフォーメーションについて語る時、ビジネスリーダーはしばしば「トランスフォーメーション」(変革)ではなく「デジタル」という言葉に注目する。ありがちだが、これは重大な間違いだ。

 このテーマが持ち上がった時、誰もが最初に問うべきは次の質問である。「実際、私たちが問題にしているのは、どのような変革か。自社が常に直面している他の市場変革とは、どう違うのか」

 これに関しては筆者も考えがある。過去20年、筆者はデジタルトランスフォーメーションが企業や市場に与えるインパクトに注目し、研究と教育を重ねてきた。その結果、デジタルトランスフォーメーションの2つの重要な特性を明らかにすることができた。いずれも業界のリーダーに新たな課題と機会をもたらすものだ。

 1つ目の特性は、デジタルトランスフォーメーションは、かつて希少性があったものを大量化する傾向があることだ。デジタルでエンコードされた情報は、コストをかけず、品質を落とさずに、無限に複製することができる。多くのビジネスモデルは「希少資源を支配する」という考えに基づいているため、デジタルトランスフォーメーションのこのような側面は極めて破壊的で、概念化することさえ難しい。

 2つ目の特性として、デジタルトランスフォーメーションは、企業の競争環境の多くの領域に、同時に影響を与えることが多い。このように範囲が広がると、個々の市場変革による脅威を評価することに慣れている経験豊富なマネジャーは、同時に複数発生したデジタルな変化がもたらす、複合的な脅威を見落とすおそれがある。

 この10年間に映画業界がどのような経験をしてきたかを見ていこう。デジタルトランスフォーメーションの2つの特性が、歴史的に業界を支配してきた企業の経験豊富なマネジャーにも課題を突きつけることがわかるはずだ。

 2015年、筆者は同僚のラフール・テラン(カーネギーメロン大学ハインツ・カレッジ教授)とともに、ハリウッドの大手映画会社のシニアエグゼクティブを招き、テクノロジーが映画業界にどのような変化を与えているかに関して、授業の中で話をしてもらった。

 そこでテランが、アマゾン・ドットコム、ネットフリックス、グーグルなどの新規参入者が大手映画会社の市場支配力を脅かすことを懸念しているかと尋ねると、「この100年の間、同じ6社の映画会社が業界を支配してきた」と彼は笑った。「それには理由がある」

 そのエグゼクティブは正しかった。実際、同じ映画会社6社が100年以上にわたり業界を支配していたし、その間にはコンテンツの制作、流通、消費のほぼすべての側面で大きな変化に直面してきた。そうした変化のいずれも、彼らの市場支配力に影響を及ぼさなかったならば、2015年に彼らが直面していたデジタルトランスフォーメーションは、なぜそれまでの変化と異なるというのか。

 2015年の状況が過去に直面してきた変化と違ったのは、新たな種類の豊富さと、かつて経験したことのない急激な変化をもたらしていたからだ。