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不確実な状況が続くと疲れがたまり、人は直感に頼って安易な決断を下しやすくなる。困難な状況に立ち向かうことで得られる利益が大きいと理解しているにもかかわらず、なぜそのような行動をやめられないのか。筆者は、誰もが直面するこの問題を克服するための3つのステップを提示する。


「最近、気分はどうか」と尋ねれば、表現の差こそあっても「疲れた」と答える人が多いだろう。私たちは不確実な環境で生活することに疲れている。育児と仕事の両立に疲れている。人手不足やサプライチェーンの問題で疲れている。

 このように感じる時、脳は精神的エネルギーを節約するために、最も入手しやすく、思い出しやすい情報だけに目を向けて、急いで判断を下そうとする。そのためによくやるのが、直感に頼って最良の推測を行うことだ。

 これは「便宜性バイアス」と呼ばれ、すべての不確定要素をきちんと考慮せずに、正しいと感じることを行ったり、判断を急いだりする傾向を指す。脳がそれをやるのは、新しいアイデアよりも既存のアイデアのほうがはるかに処理しやすいからだ。この原理は、心理学で「処理流暢性」と呼ばれる。

 スペイン語を話せる人が、日本語よりもイタリア語を覚えるほうが楽なのは、このためだ。また、ニューヨーク大学スターンスクール・オブ・ビジネスでマーケティングを担当するアダム・オルター教授が明らかにしているように、流通が極めて少ない2ドル紙幣1枚より1ドル紙幣2枚のほうに価値を感じる人が多いのもこのためである。

 その結果、自分が単純に正しいと感じることを行う傾向がある。従業員にオフィス復帰を求めるのは、脳がそれをイメージできるからであり、誰もが週4日勤務を望んでいると思い込むのもその一例だ。

 また、快楽原理も働いている。人は快楽や快感を追求し、不快なことを避けるようにできている。努力には苦痛を感じるので、脳はそれを悪いことだと見なす。そして「いつも通り」だと感じられること――日々どこへどのように向かうかを指示するネットワーク――を指向するのだ。このようなネットワークは人間の思考の奥深くにあるため、新しい困難な道を進もうとすると、それがどのような道であろうと、私たちの車輪は刻まれた轍に知らずしらず戻ってしまうのである。

 にもかかわらず、私たちは困難な行動が莫大な利益をもたらすことを――利益が目に見えるまで少し時間がかかることも――知っている。たとえば、何かしらの運動を続ける習慣を身につけたいとしよう。「1マイル走れるようになったら、子どもたちともっと遊べる体力がつくに違いない」――そのようなひらめきが行動を起こすきっかけになるかもしれない。あるいは生活習慣を変える必要があると医者に言われたり、突然に意欲を沸かせるようなきっかけがあったりしたという場合もあるだろう。

 ところが、おかしなことが起きる。初めてランニングに出かけるが、気持ちよくない。次に走った時も、また次に走った時もそうだ。筋肉痛になる。新たな趣味に投じたお金のせいで家庭内に摩擦が生じる。それまでのように友人と充実した時間を過ごすことがなくなる。そのような事態が積み重なることで、以前――筋肉痛がなかった頃、友人と飲みに出かけていた頃、月100ドルのジムの会費でパートナーとケンカをしなかった頃――に戻るべき理由を常に突きつけられるのだ。

 では、努力しないようにと脳が指示を出し続けている時、どのように困難な活動を行えばよいのだろうか。