障壁2:スピード vs. 質の重要度をめぐる思い込み

 締め切りの延長を求めたら能力が低いと評されるのではないかという懸念に加えて、筆者らが次に行った調査では、仕事のスピードを重視する上司の思いを多くの従業員が過大評価している様子も浮き彫りになった。

 この実験では、フルタイムの従業員200人とマネジャー200人に、報告書の締め切りが変更可能な状況をイメージするよう依頼した。マネジャーに対しては、その場合にスピードと品質をそれぞれどの程度重視するかを尋ね、従業員に対しては、作業期間の延長を要請するか、そして上司がスピードと品質をそれぞれどの程度重視すると思うかを尋ねた。

 その結果、従業員は仕事を早く終わらせることへの上司の関心度を常に過大に見積もっており、そのために締め切り延長の依頼を躊躇していることがわかった。実際に質よりもスピードが優先されるケースがあることは間違いないが、筆者らの研究から、そうしたケースは従業員が思うよりずっと少ないことが伺える。

 もちろん、これは従業員が「常に」締め切りの延長を求めるべきだという意味ではない。先行研究によれば、特に締め切り期日を過ぎた後の延長依頼と、度重なる延長依頼は、どちらも上司からマイナスの評価につながりやすい。

 同様に、変更が容易な締め切りがある一方、変更に伴うコストが大きい締め切りもあり、その場合は延長依頼がマイナスの結果につながりやすいことも、筆者らの別の論文で明らかになった。ただし、そのような変更しにくい締め切りについても、従業員は延長依頼が悪い印象を与える度合いを過大に見積もる傾向が見られた。

 私たちはなぜ、このような間違った思い込みをしてしまうのだろうか。

 研究によって明らかになったのは、最終的な成果物の出来栄えや洞察力といった質的な(より重要なケースも多い)指標よりも、作業期間のように簡単に数値化できる指標に頼りやすい傾向があることだ。一般的にマネジャー従業員もタイムマネジメントのスキルをトップ人材の特徴と見なしており、時間を効率的に使える力は有能さと、さらには社会的立場の証だと広く見なされている

 そうだとすれば、「締め切りの延長を求めたら、無能で非効率な人間だと思われる」と多くの従業員が懸念しているのも驚きではない。実際には、真実は往々にしてその正反対であることが、筆者らの研究で明らかになっているのだが。

解決策:明確なコミュニケーション

 これらの要因を踏まえると、締め切りが変更可能か否かをマネジャーが明確に伝えることが重要だとわかる。

 締め切り延長を求めても大丈夫かを従業員に推測させるのではなく、どういった場面では作業のスピードに基づいて評価し、どういった場面では質を重視するのかに関する方針を明確に打ち出す必要がある。そうすることで、締め切り延長を求めたら無能だと思われるという従業員の不安が軽減され、それが彼らの心理状態と仕事の質の向上につながる。

 締め切りの延長依頼だけで、無数にある職場のストレス源のすべてが消え去るわけではない。それでも重圧に押し潰されそうになったら声を上げ、必要な時は締め切り延長を積極的に求めるよう従業員の背中を押すことができれば、ストレス軽減とパフォーマンス向上の一石二鳥が可能となる。

 大半の場面で、重要なのはスピードよりも質の高さだ。締め切りに間に合わないかもしれない時は、上司に延長を打診してみよう。そのせいで評価が下がる可能性は、あなたが思っているよりずっと低いはずだ。


"Go ahead and Ask for More Time on That Deadline," HBR.org, December 10, 2021.