オープン・イノベーションという概念が世の中に浸透し、自前主義であらゆる問題の解決を目指すのではなく、解決の糸口となる技術やアイデアを社外に求める企業が増えてきた。ただし、その多くは大企業が中心であり、中小企業が主体的に取り組む例は限られている。しかし、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、オープン・イノベーション支援を行うナインシグマ・ジャパンの立ち上げに参画し、現在は和歌山の老舗メーカーの再建に挑んでいる星野達也氏は、オープン・イノベーションは中小企業こそ積極的に活用すべきだと語る。全3回の連載では、なぜ中小企業にオープン・イノベーションが有効なのか、具体的にどうすれば実践できるのかについて、筆者の実践例をもとに論じる。

オープン・イノベーションを実践し
日本の中小企業の存在感を取り戻す

 オープン・イノベーションという概念が世界的に広がり始めたのは、2000年代初頭からである。その後、日本国内でも急速に認知度が上がり、大手製造業を中心にその取り組みが拡大していった。筆者は2006年からの10年間、オープン・イノベーションの導入を支援するナインシグマ・ジャパンの設立メンバーとして、大手メーカーによるオープン・イノベーションをサポートしてきた。

 ナインシグマ・ジャパン在籍中の2015年には、『オープン・イノベーションの教科書』(以下『教科書』)という書籍を出版した。そこでは、長年変わらぬ自前主義、リーダーシップの不在、新しい取り組みに対する意思決定の遅さ、グローバル連携の拙さなど、日本企業のオープン・イノベーション活動を支援する中で見えてきた問題を取り上げ、警鐘を鳴らしたいという気持ちを込めた。また、当時急速に認知度が高まっていたオープン・イノベーションに関する正しい理解を促したいという思いもあった。

 いまでは、その単語をいろいろなところで耳にするようになり、大企業を中心に当初の予想を超える速さで、オープン・イノベーションという概念が浸透したことを実感する。しかし、これは正直な思いとして、海外の先進企業と比較すれば、この新たな仕組みを自社の成長にうまく結びつけられた日本企業は、筆者が期待したほどには生まれなかった。自分自身の力不足も否定できないが、『教科書』で指摘したような課題がなかなか解消されず、オープン・イノベーションを取り入れる際のハードルになり続けていたからだ。

 その後、『教科書』を読んだというヘッドハンターから一本の電話があった。和歌山の中堅企業の変革にオープン・イノベーションの知見を活かして挑戦してみないかという誘いだった。コンサルタントとしてオープン・イノベーションを支援する中で、「自分だったらこうする」と感じたことは一度や二度ではなかった。しかし、自分に経営ができるほどの自信も経験もなかったので、最初はお断りした。

 だが、オープン・イノベーションをみずから実践することで、オープン・イノベーションというものに、さらに深みのある意味合いを出せるチャンスではないかと考えて、後日詳しい話を聞いてみると、写真現像に関しては世界に通用する技術があること、実際に工場を見学すると設備が非常に充実していることがわかり、ここであればさまざまな挑戦ができるのではないかという感触を持つことができた。

 そして2016年、和歌山県の精密機器メーカーであるノーリツプレシジョンの変革に参加することを決めた。会社の外から意見するコンサルタントという立場から、実際に現場で実践するプレイヤーに変わってから5年が経ち、たくさんの挑戦をして、苦い思いも嫌というほど経験した。

 経営者という立場でオープン・イノベーション活動を続ける中、筆者が自信を持って言えることは、オープン・イノベーションは大企業にも有効だが、むしろ日本の中小企業にとってこそ効果的な手段であり、日本のモノづくりが復権を果たすうえで必須の営みであるということだ。

 中小企業の場合、大企業と比べてトップダウンが機能しやすく、リーダーの影響力を現場までスムーズに伝達できるので、組織文化の変革を進めやすい。大企業のような安定した経営基盤を持たないことを自覚しているため、現場レベルまで危機感を浸透させやすく、新しいリスクある挑戦を受け入れやすいのだ。また、規模が小さい分、意思決定のスピードを上げやすいことも大きなメリットとなる。

 日本の製造業の9割以上は中小企業である。日本のモノづくりの活性化は、彼らの活性化なくして達成することなどできない。彼らがオープン・イノベーションという仕組みを積極的に活用すれば、世界に誇る技術力で世の中のニーズを満たすことができ、日本のモノづくりの存在感を再び示すことができると、筆者は心から信じている。

 本連載では、筆者が中小メーカーの経営者として、みずから体験したオープン・イノベーション活動の中で見えてきた、中小メーカーが目指すべきオープン・イノベーションのあり方を共有したい。

 ここで紹介するケースは、あくまでもノーリツプレシジョンという地方の中小メーカーの挑戦にすぎない。しかし、そこから見えてくる意味合いに関しては、日本の中小メーカー、あるいは大手メーカーの事業部などにとっても示唆があるものだと考えている。失敗の経験から得た気づきを含めて、正直に記載することを心がけた。