カスタマージャーニーもプロセスマイニングの得意分野

有川 プロセスマイニングの活用領域として、BPRやリスクマネジメントのほかに代表的なものはありますか。

百瀬 カスタマージャーニーの分析も、プロセスマイニングの得意分野です。顧客がなぜ商品を買わないで離脱してしまうのか、そのプロセスを見たい場合は、顧客のIPアドレスを分析すれば、ウェブサイトのどのページにアクセスして、どういうふうに遷移して、どこで離脱してしまったのか、すべてログが残っているので、一目瞭然です。

 私が知るオンライン損保の事例を紹介すると、お客様が成約する時には、必ず用語集のページに5~6回行っていることがわかりました。約款を理解するために、わからない言葉を調べるためです。これが面倒だという人の離脱率が20%もありました。そこで用語集にアクセスした人たちはどの言葉を見ているのかを調べ、検索頻度が高い用語の解説を約款のページに記載することで、成約率が5%上昇しました。

有川慶子
デロイト トーマツ リスクサービス株式会社 パートナー

IT系コンサルティング会社にて、会計システム開発・運用業務を経験。その後、大手監査法人グループを経て現職。銀行・証券などの金融機関を中心に、ITガバナンス・システムリスク管理に関わる業務のアドバイザリー、評価業務に数多く従事している。最近では、金融機関、製造業などで業務改善、RPA・AI-OCRなどのデジタル化ツール導入・業務デジタル化推進案件をリードしている。

有川 わかりやすい事例ですね。デロイト トーマツ グループでは、特に欧州で製造業に対する支援の実績が多くあります。受注から生産、納入までのリードタイムの短縮や、コスト削減の観点からプロセスマイニングを活用するケースです。

 最近では、米国の金融機関でも、リスクマネジメントの観点からプロセスマイニングを活用する動きが出ています。日本でいうと、DXに向けてのアセスメントの部分で引き合いが多くなっています。

百瀬 プロセスマイニングは、フレデリック・テイラーが提唱した「科学的管理法」における時間管理の道具ともいえます。タイムスタンプでアクティビティを並べて、そのプロセスが最初から最後までどれだけ時間がかかっているのかを計ることができるからです。

 たとえば、国内自動車メーカーでは、ディーラーから注文を受けて、生産し、出荷するまでの時間が正確にわかっていません。それはログを取っていないからです。一方、ドイツの自動車メーカーの場合は、私が注文した車がいま、どこの工場で、生産ラインのどの段階にあるのかを可視化できる情報を持っています。ですから、納入までの正確な時間を顧客に伝えることができます。

有川 ドイツ企業は、プロセスマイニングを上手に活用していますね。ある自動車メーカーは、不良品が出た時に、それを修理して、次のプロセスに回して使っていたのですが、結局、廃棄されるケースが多く、再利用が進まなかったということが、プロセスマイニングで明らかになったそうです。

 SDGs(持続可能な開発目標)の意識が世界的に高まり、脱炭素に向けた企業の取り組みが本格化する中で、生産プロセスや輸送時におけるCO2の排出量を減らすためにプロセスマイニングを活用する動きが、今後は広がる可能性があります。

 では最後に、プロセスマイニングへの期待、今後の新たな可能性について一言お願いします。

百瀬 ファン・デル・アールスト氏も言っていますが、手が汚れたら洗うのと同じで、プロセスが汚れていたら、洗わなきゃいけない。プロセスマイニングは公衆衛生に近い概念として、ドイツでは多くの企業の間に浸透していますが、日本はまだまだです。そこはプロセスマイニング協会として取り組んでいかなければならない課題です。

 協会の会員各社にも協力していただいて、プロセスマイニングの意義を広く啓蒙し、プロセスをきれいにしてもらう。いきなりすべてをきれいにしなくてもいいので、まずは目立つところだけ片付け、掃除をする。

 また、コンプライアンス違反については、そうならないようなプロセスに変更する。人為的なミスが起こりやすい業務プロセスは、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などを導入して自動化していく。そういうことが自然にできるような感覚を、日本にも根付かせていきたいと思います。

有川 日本企業はいま、DXやデータ利活用をせざるをえない状況にあり、政府もDX推進に向けた施策を打ち出しています。これからデジタルデータの量は幾何級数的に増大していきますから、プロセスマイニングを活用できる場面もどんどん増えます。私たちもそうした将来を見据えて、中長期の視点で企業をサポートしていきたいと考えています。

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