プロセスを重視する日本と親和性が高い

有川 プロセスマイニングのツールを提供しているベンダーの多くは、欧州企業ですね。

百瀬 新しいITツールは米国発だと思われがちですが、約30社あるベンダーのうち米国企業は2社ぐらいで、ほとんどが大学発ベンチャーを含む欧州企業です。プロセスマイニングの研究がオランダの大学で生まれ、ドイツで発展してきた経緯があるからです。そこからチェコやポーランドなどに広がり、その後米国に伝わりました。

 歴史的に製造業が強いドイツはプロセスを重視する傾向にあり、プロセスマイニングは日本とも親和性が高いといえます。一方、アウトプットを重視する米国や中国は、アウトプットさえよければ、プロセスは問わないという考え方があります。日本とドイツは、プロセスがきちんとしていればいい商品ができる、それもクオリティを落とすことなく、繰り返しいい商品がつくれるという考え方ですから、プロセスマイニングがフィットするわけです。

百瀬公朗
一般社団法人プロセスマイニング協会
代表理事
上智大学 特任教授

アーサーアンダーセン共同会計士事務所に入所し、事業分離後のアンダーセンコンサルティングでパートナーを務めた後、SAS Institute Japan筆頭副社長、電通マーチファースト社長などを歴任。2020年3月末まで三菱総合研究所で事業開発をリードする。同年4月、上智大学特任教授に就任し、プロセスマイニングを含むデータサイエンス領域を担当。また、日本におけるプロセスマイニングの発展に向けて一般社団法人プロセスマイニング協会を立ち上げ、その普及活動に尽力している。

有川 プロセスマイニングを狭義で見ると、タスクマイニングとプロセスマイニングに分けられます。「ヒト」がPCでやっている「タスク」で利用したアプリケーションやタイムスタンプなどのデータを活用して分析するのがタスクマイニングですが、日本ではどちらかというと、このタスクマイニングのほうが早く広まっていて、私たちもBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)のプロジェクトでは活用しています。

百瀬 タスクマイニングは、「東京事務所のPCのログを全部見る」というような話ですが、一方のプロセスマイニングは、東京事務所も大阪支社も福島支店も、全拠点で統一されたアクティビティがあって、それをプロセスとしてモニタリングするものです。タスクマイニングが部分最適とすれば、プロセスマイニングは全体最適の考え方といえます。

 日本企業がプロセスマイニングを行ううえでの課題は、実はデータが集まらないことです。ID、アクティビティ、タイムスタンプの3つのデータが、ERP(統合基幹業務システム)などで統合管理されている企業は簡単に集められるのですが、多くの企業で部門ごとにサイロ化されたシステムが併存し、データの連携が難しいという日本特有の課題があります。プロセスマイニングよりもタスクマネジメントが先行している背景には、そういう事情があります。

有川 プロセスマイニング協会は、どのような目的で設立され、どんな活動を展開されていますか。

百瀬 プロセスマイニングは結局テクニックなので、現場の人たちがそのテクニックを覚えることが重要です。こう見えたら、こんなことが起きているんじゃないかとか、もしかするとリベートを取っているかもしれないとか、「これっておかしいんじゃないか」と、ペトリネットの絵を見ながら議論できるようなカルチャーを日本につくりたいと思い、協会を設立しました。

 プロセスマイニングは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進する際のビジネスリスクをチェックする機能を持っていると考えています。DXは新規事業開発に関わるケースが多いと思いますが、新規事業では何が落とし穴で、どこにリスクがあるのかということが、あまり見えていません。しかし、デジタル化してイベントログが残っていれば、後追いでもコンプライアンス的なことはチェックできますし、リスクファクターを洗い出すことも可能です。

 もう一つの設立目的は、IT投資にあまりコストをかけられない中堅・中小企業の業務改善や経営改革をサポートすることです。日本全体を考えたら、中堅・中小のほうが企業数も従業員数も圧倒的にボリュームが大きいですから、生産性の向上や経済成長のためにはここを何とかしなくてはなりません。とりあえず、中堅・中小に対して、プロセスマイニングの教材ソフトをつくり、無償で配ろうと考えています。

有川 私たちデロイト トーマツ グループは日本において、プロセスマイニングの専門組織「Center for Process Bionic Japan」(CPB Japan)を開設しました。もともとはドイツでプロセスマイニングのサービスを開始して、ノウハウが蓄積していく中で、彼らの発案によりCPBが発足しました。私たち日本のメンバーもドイツのCPBと連携しながら活動を展開する中で、昨年(2020年)あたりから国内のお客様からの問い合わせが急増したことから、CPB Japanを立ち上げました。デロイトのグローバルなナレッジを共有し、お客様にさまざまな事例を紹介するほか、ウェブサイトを開設して積極的に情報発信を行っています。

 ところで、国内でプロセスマイニングへの注目度が高まっている背景に、コロナ禍やDXの進展があると思われますか。

百瀬 コロナ禍はあまり関係ないと思います。むしろ、ワクチン接種により感染拡大が落ち着いて、対面でのビジネスが再び動き出す中で、プロセスマイニングを取り巻くプレーヤーたちも攻勢をかけ、プロセスマイニングという言葉を発信する機会が増えたので、注目度が高まっているところはあります。

 DXについても、現時点でプロセスマイニングへの直接的な影響はあまり大きくないのではないでしょうか。むしろ、デジタルシフトが進んだ後、2年くらい経って大量のログデータがたまった時に、そのデータをどう活用するかということが議論されていくんだと思います。

有川 そうですね。DXが進むと、デジタルなログを取得することが容易になってきますので、ますますプロセスマイニングが活用可能な場面は増えてくると思います。

 特に、コンプライアンスやリスクマネジメントのような領域での守りのDXでの活用は増えていくと考えています。なるべくDXを進めている段階で、DX後のデータ利活用を見越しておくことが、データ利活用の早期化やリソースの節約につながりますし、理想ですよね。

 Deloitteでは、DXを進める段階において、プロセスマイニングを活用してご支援させていただくことがあります。DXを進めるには、現状の業務をいかに正しく把握できるかがキーになってきます。従来は、ご担当者のインタビューやマニュアルなどの資料を閲覧することで実施していましたが、それに加えてプロセスマイニングを利用することにより、属人化、ブラックボックス化された業務やシステムを客観的に、かつ従来よりも時間をかけずに確認することができます。

百瀬 DXの阻害要因は、現状把握に時間を要していたこともそうですが、特に日本では属人的、職人的な業務への依存や、オペレーションの変更に対する抵抗感など、文化的な側面が大きく関わっていると思います。

 ただ、ここを乗り越えていかないと、DXの流れにどんどんと遅れていくことになりますので、国際的な競争力を保つことが難しい状況になると考えます。DX化され、企業の競争力が高い状況が、すなわちプロセスマイニングが活きる企業環境になると思います。

有川 たしかにそうですね。今後人口が減少していく中で、業務のデジタル化は、業務の継承や企業経営の継続性に関わる課題でもありますよね。