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米国はこの1年半で数々の混乱を経験し、人々の暮らしに大きな打撃を与えている。問題解決に向けて政府が行動を起こさない中、企業に対する期待はますます高まっている。実際、民主主義の維持や気候変動問題の解決に声を上げる企業は増えてきた。しかし、彼らのメッセージに行動が伴っているとは言えない。完全に手遅れになる前に、企業のリーダーたちは政治との関わり方を見直し、ビジネスと同じようにイノベーションを起こすべきだと、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授らは主張する。


 この1年半、米国は前代未聞の混乱を経験してきた。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、景気後退、米大統領選をめぐる議論、米連邦議会議事堂の襲撃事件、そして複数の州における投票制限の州法可決。また、米国の非営利組織ソーシャル・プログレス・インペラティブが発表している社会進歩指標によれば、2011年以降、米国人の生活の質は低下している。

 長い間、大切に愛されてきた「アメリカンドリーム」の概念が危機にさらされている。そして、経済成長が続いているにもかかわらず、ビジネス環境は悪化の一途をたどっている。

 政府が行動を起こさない時代において、何より落胆すべきなのは、この問題を率先して解決しようという強い信念がビジネスコミュニティに欠けていることだ。

 表向きは、企業が打ち出すメッセージはここ数年で劇的に変化し、気候変動や人種平等、投票権といった社会問題が著しく強調されるようになった。しかし、それらの言葉に行動が伴っているとはいえない。このような課題を解決するための法整備を行う10年に1度のチャンスが訪れたのに、である。

 気候変動対策や投票権に関する立法に際して企業の姿は見えなかったものの、米国随一の財界ロビー団体で主要企業のCEO約200人が参加するビジネス・ラウンドテーブル(BR)は、その気になればワシントンに多大なる影響を与えられることを証明してきた。

 この数カ月だけでも、法人税率引き上げを先送りさせるためにCEOをメディアに登場させ、議員たちに直接働きかけ、大量の広告枠を購入するなど、莫大な資金を投じたキャンペーンを展開し、成功を収めている。

 このキャンペーンが、ワシントンのリーダーたちに送ったメッセージは明確だ。すなわち「税率変更は絶対にありえない。(議員たちが今後)BRの支持を得られるかどうかは、(法人税率引き上げに関する)態度次第だ」というものである。

 それならば、気候変動対策や民主主義の維持に関しても「絶対にありえない」というメッセージを発してはどうか。

 幸いなことに、事態はまだ手遅れではない。これから数週間の間に、予算調整法案、インフラ投資法案、そして選挙制度改革法案が次々と議会に提出される。これは、そのような問題を解決するために企業が決定的に重要な機会を担うことができる、かつてないチャンスだ。BRならば、米国企業が気候変動リスクや民主主義の危機といった喫緊の課題に真剣に対処する意欲があることを、再び証明することができる。

 このような行動は、けっして前例がないものではない。

 ウォルマートのリー・スコットは同社のCEOを務めていた2006年、平等選挙は従業員と顧客に不可欠だという認識に基づき、投票権法の延長を積極的に支持した著名経営者の一人となった。そのおかげもあり、延長法案は超党派の支持を受けて可決され、ジョージ・ブッシュ大統領(当時)によって署名された。

 2020年11月、業界団体CEOたちは結束して、米大統領選の結果は合法的であることを支持するとともに、その後の暴動を厳しく非難した。そして2021年1月20日、ジョー・バイデン大統領への権力の移行が平和的に実現した。