PPDと仕事について知っておくべきこと

 事実は、極めて単純なことだ。つまり、母親になるということは、体力面においても感情面においても、そして間違いなく責任という観点においても、出産前とは違う。

 出産までの月日は確かに消耗するし、多くが不安でいっぱいになるものだ。しかし、赤ちゃんがお腹を蹴ったり、ベビーシャワー(出産前に生まれてくる子どもや妊婦を祝福するパーティ)やベビームーン(出産前の夫婦旅行、または生まれたての子どもと過ごす時間)があったり、期待や祝福、絆をつくる時期である場合が多い。

 それに比べて、出産直後の母親は、家で赤子と2人きりになることが多く、出産から心身を回復させながら、自分の新たな役割をどうにか理解しようとしている状態が続く。

 この孤独感は、急激なホルモンの変化と相まって、軽度のベビーブルーからPPD、さらにはサラのような重度のPPDを含めた産褥期精神病まで、産後に起きるさまざまな気分障害の引き金となる(具体的な症状については、メイヨークリニックのサイトによくまとめられている)。

 この間、母親自身のヘルスケアやサポートにも急激な落差が生じる。ワシントンD.C.の産婦人科医ローレン・メッシンジャー博士は、次のように語る。

「出産前のケアの過程では、女性と強い絆を築き、最後は毎週のように診察室で会うわけですが、出産後になると1ヵ月半も電話や診察の予約がないのが現状です」(メッシンジャー医師の産婦人科では、この問題に対処するために、産後2週間検診を追加実施するようになった)

 このような状況に加え、職場に復帰すると、自分の仕事自体は変わらなくても、自分自身が復帰前とは変わっている。つまり、家の中で増え続け、常に変わり続ける責任に対応しなければならない、新たな自分だ。

 にもかかわらず、どうにかしてかつての情熱をさらに燃え上がらせようとする。要するに、仕事も以前のように完璧にこなそうとするのだ。

 どれだけ力強く、頼もしいピアサポートがあったとしても、職場復帰は衝撃になる。かつては自分が先頭に立ち、周囲から信頼されていたはずの領域は、いまでは急な上り坂に変わり、それに見合った学習曲線を描いている。

 その日の仕事を始めてから終えるという以前は何でもなかった行為が、復職後の母親にとっては、新たに必要となった複雑なロジスティクス、ホルモンバランスの変化、疲労困憊のために、恐怖にさえなりうる。

 それがまさに、サラの身に起きたことだった。育児休職中にすでに苦しんでいた彼女は、仕事に復帰すれば万事解決すると思っていたが、実際には、それがとどめの一撃となってしまったのだ。