社会課題解決がデータドリブンになってきた

 新型コロナウイルス感染症の影響もあって、社会課題に対する議論が深まっていると思います。たとえば、いろいろな仕事がリモートワーク化していった一方で、エッセンシャルワーカーの仕事はリモートワーク化できませんでした。社会を支える仕事であるにもかかわらず、その仕事に従事する人たちがある種のデジタルデバイドに悩まされている状況が明らかになりました。

 また、リモートワークしている人たちも、仲間とのインフォーマルなコミュニケーションが取りづらくなったり、オンラインミーティングを次から次へと詰め込みすぎて労働時間が増えてしまう人がいたり、あるいは運動不足になったりして、精神的・肉体的に体調が悪化するという問題も生じました。

 コロナ禍でウェルビーイングが強く意識されるようになり、一方で環境問題も年々クローズアップされるなど、社会課題の解決がより大きなテーマになってきていると思います。

石山 エクサウィザーズが誕生したのは2017年で、当時はまだSDGsがいまほど世間一般に認知されていませんでした。その後、SDGsやカーボンニュートラルなどを含めてマクロな課題の解決を定義した指標が社会に浸透し、みんなで解決しようという文化が世界的に根付いてきたのは、非常にいいことだと思います。

石山 洸エクサウィザーズ 代表取締役社長

東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻修士課程修了。2006年4月リクルートホールディングスに入社。2014年4月メディアテクノロジーラボ所長、2015年4月リクルートのAI研究所であるRecruit Institute of Technologyを設立し、初代所長に就任。2017年3月デジタルセンセーション取締役COO、2017年10月の合併を機にエクサウィザーズ代表取締役社長に就任。東京大学未来ビジョン研究センター客員准教授。

 同時にビジネスの世界でも、SaaSメトリクスなどの指標が定着しつつあります。たとえば、自分たちのサービスやプロダクトを提供することで、ユーザー数が1単位増えた時に、売上げはいくら上がるのかといった指標です。AIの普及によって、プロダクトが1単位普及した時に、社会課題解決の指標にどのぐらい貢献しているかということを計測することもできるようになりました。

 当社の例でいえば、介護記録AIアプリが1単位普及した時に、介護者の生産性がどのぐらい上がり、それによって介護の品質が上がって、被介護者の日常基本動作がどのぐらい改善されるか。日常基本動作によって介護度が決まりますから、動作が改善されて介護度が下がると、介護費の抑制につながります。つまり、ユーザー数が1単位増えた時に、介護費がいくら効率化されるかを可視化することが可能なわけです。

 そのように、ミクロの部分のSaaSメトリクスと、マクロの社会課題解決指標のつながりが骨格として見え始めていて、社会課題解決もデータドリブンになってきていることを実感しています。

 我々デロイト トーマツ グループでも、それと同様の支援案件をいくつか手がけています。デジタル化が進んだことも大きいですが、顧客体験をさらに高めるためにビジネスプロセスを変革したり、社会課題をテーマにした新しい事業やサービスにチャレンジしたりする企業が増える中で、KPI(重要業績評価指標)やKGI(重要目標達成指標)の体系をつくり直したいというニーズが増えているのです。

 KPIやKGIをつくり直した先にあるのが、データ分析に基づく予測や、KPIとKGIの相関分析です。企業経営もデータドリブンに本当に変わろうとしていますし、それが社会課題解決ともつながっているのは、歓迎すべきことですね。

石山 先ほど森さんがおっしゃったように、コロナ禍で人々がウェルビーイングについて深く考えるようになり、環境問題などのプラネタリーバウンダリー(地球の限界)もますますクローズアップされています。ミクロとマクロのつながりが縦のレイヤー(階層)だとすると、横のレイヤーにウェルビーイングとプラネタリーバウンダリーが広がってきたというのが、ここ1〜2年の大きな変化だと思います。

 ウェルビーイングとプラネタリーバウンダリーの課題は、最終的には統合されていくと私は考えています。つまり、ウェルビーイングで自分に優しくなって、その次に人に優しくなって、さらに進んで環境にも優しくなるという流れです。

 ミクロとマクロの課題解決指標の関連をデータで可視化できるようになりつつあることで、ウェルビーイングとプラネタリーバウンダリーが相関する概念として認識されやすくなってきている気がします。5年前には誰も考えていなかったことですが、すごく面白い現象です。