4. 従業員に然るべき敬意と配慮を示す

 人材市場は一変した。従業員を顧客と同じように扱い、長く働き続けてもらえるように細心の配慮を示さなくてはならない。これが離職率を抑え、成長曲線を軌道に戻す第一歩である。

 既存の従業員が、新規採用の波の陰で無視されていると感じたり、ビジネスを前進させる努力を過小評価されていると感じたりすれば、離職の流れは止まらず、成長曲線も上向きにはならない。

 従業員が組織に留まることを当然だと思ったり、期待したりするだけではいけない。それでは健全な関係とはいえないだろう。以下に、然るべき敬意と配慮を示すための3つのステップを挙げる。

 ●「再び採用する」と考える

 既存の従業員を、これから自社で新規採用しようとしている人材と仮定した時、どのような会話が交わされるかを考える。

・従業員のモチベーションや野望を理解することに時間を費やす。数多くの求人がある時に、組織内のどこに好機があるかを見極め、たとえそれが自分のチーム以外の場所であっても特定し、従業員がまだ達成できていない夢や野望を実現する手助けをすると考える。

・組織にポジティブな影響を及ぼし、その功績が認められていると従業員が感じられるようにサポートする。何をしているのかだけではなく、なぜそれが重要なのかを認めるのだ。困難な時期に、従業員がいかにして仕事を続けてきたかをあなたが高く評価していると伝えよう。人は自分が大きな影響を与えていることを知りたいものである。

・対話を続ける。これは一度きりの対話ではない。ただ相手に近づいて、言葉を交わし、それですべてよしと考えてはいけない。会社のマネジャーやリーダーであれば誰しも、これを第一の関心事にしなくてはならない。

 ●適切な報酬を支払う

 評価基準や報酬制度といった仕組みを全体的に見直す必要が生じる可能性がある。仮に従業員や人材市場から見聞きすることが、自社における現実と一致していない場合、いまこそ現状に異議を唱える時だ。

 これは、単に報酬額を上げることに限らない。研究によれば、昇給でモチベーションを上げる効果は長続きしない。報酬と同じように重要なのは、従業員の貢献度と影響力をどう認識し、どのように評価するかということである。

・自社の組織DNAについて考える。従来の方法では組織の現状やそこで働く人々にそぐわないのならば、どのようなものが適合するかを見つけ出す。

・過去とは、すすんで決別する。気がつけば、過去は消え去っているものだ。

・長期戦で取り組む。会社の報酬に関する指針が明確で、全従業員に理解されていることを確認する(それはあなた自身から始まる)。アカウンタビリティ(説明責任)のある環境を整え、新規採用者が入社した時も、既存の従業員が損をしないようにする。

 公平であることは、貢献をどう評価するかということから始まる。従業員に対する認識と報酬にまつわる無数の問題を解決するのは、組織の中であなた一人の仕事ではないかもしれないが、みずから主導することはできる。問題を表明し、アカウンタビリティを主張することは可能なのだ。

 ●関心を引き出す

 企業は大きな打撃を受けているが、多くの企業が抱える現在の痛みの根源は、人手不足にある。

 既存の従業員は、空きポジションの業務を埋めるために、自分の職務範囲を広げて従来以上の仕事を引き受けている。真の問題解決のために、自分にはどうすることもできない状況下で、顧客の不満に耳を傾けなくてはならない。そして、限界に達した同僚がまた「辞める」のを目撃しながら、その痛みを感じているのだ。

 したがって、問題解決を助けてもらうには、あなた自身が勇気を出して従業員を引き込む必要がある。

・従業員に助けを求める。これは勇気が問われる。なぜなら、自分があらゆる物事に対する答えを持っているわけではないと認めるのは、弱さをさらけ出すことでもあるからだ。より多くのアイデアが採り入れられ、多くの参加によって多様な見解が展開される時に、より好ましい結果が生じると認識するには、みずからの強さと自信が必要である。

・日々直面している心配事をみずから軽減できるように、従業員に権限を委譲する。従業員がステップアップしたり、新たな取り組みに参加したり、将来への道筋をつけるのに情報を得たりできるようにするのだ。そうすることで、あなたが従業員を信頼し、評価しているという重要なメッセージを送ることができる。

・望ましい結果に注力する。それを達成するには何が役立つのか、多様な知見や見解を積極的に求めるのだ。とりわけ、自分自身とは異なる知見やアイデアが欠かせない。そして、相手の意見を聞いて驚いたり、喜んだりできるように、常にオープンな状態でいることが大切だ。

 あえて自分の弱みを見せ、知ったかぶりをしないことが、すべてのステークホルダー、すなわちチームメンバーや同僚、そして直属の部下から、いっそう深いエンゲージメントとロイヤルティを生み出すための道を開く。扉を開くことで、あなたはその道を先導するのだ。


"With So Many People Quitting, Don't Overlook Those Who Stay," HBR.org, October 01, 2021.