●大局的思考を実践する

 人は、さまざまな抽象度・具象度で物事を考えることができる。心理学者は、それを「解釈レベル」と呼ぶ。たとえば、選挙で投票するという行為は、高次の解釈レベルでは「民主主義のプロセスに参加すること」になり、低次の解釈レベルでは「書類に印をつけること」となる。

 人がどのレベルで自分の行動を解釈するかは、その人の振る舞いに極めて大きな影響を及ぼす。高次の解釈レベルで考え、みずからの行動の高次での意義やパーパスを意識している時は、インスピレーションとモチベーションが高まり、自尊心とウェルビーイングが大きく向上する。

 それに対し、低次の解釈レベルで考え、自分が行っていることやすべきことの細部に目を向けている時は、具体的な問題を解決したり、障害を予見したりする能力が高まる。

 いずれの解釈レベルにも強みがある。したがって、状況に応じて思考を転換させ、視線を高く上げて高次の解釈レベルで考えることと、物事を深く掘り下げて低次の解釈レベルで考えることの両方を行うべきだ。

 問題は、視線を低く下げて細部にこだわるあまり、そこから抜け出せなくなることだ。人間の脳は、難しい状況や不確実な状況に直面すると、低次の解釈レベルで考えるようにできている。しかし、モチベーションを高めるうえでは、そのような時こそ、そもそもなぜその行動をすべきかを再確認する必要がある。

 筆者らはアーンスト・アンド・ヤング(EY)で、従業員がそれを実践するのを助けるためのユニークなプログラムを開発した。

 プログラムの参加者は、ストーリーテリングを通じて、個人的なパーパスとビジョンを言い表す言葉を見つけ、それを明確に表現する。この作業によって、一人ひとりが個人的なパーパスやビジョンと日々の業務を結びつけて考えることが可能になる。最も必要な時に、視線を高く上げて「大局」を見るように促されるのだ。

 驚くことではないが、プログラムの参加者は、最も重要なことに集中できる状態を維持し、以前に比べて厳しい状況でもレジリエンス(再起力)を発揮できるようになったと述べている。