実務家から経営学者への転身が増えてほしい

入山:芦澤先生のように実務を経験した上で、高い志を持ってアカデミアの世界にこられる方は、優秀な方が多いのでもっと増えてほしいです。そもそも、芦澤先生が実務家から研究者へと転身されたきかけは何だったんでしょうか。

芦澤:2つのことがありました。1つ目はこれまでお話ししたこと重なります。産業再生機構とアドバンテッジパートナーズ(AP)で働く中で、「どうしてこの国のこれほどに優秀な人たちが働く組織が、変われないんだろうか」と感じて、それを読み解きたい、そして解決したいという思いが強かったからです。

 2つ目は、AP勤務後、子どもが生まれたのですが、プロフェッショナルファームの激務の仕事と子育ての両立は不可能だと悟ったんです。そこで一度、仕事を辞めて専業主婦になったのですが、これが全然性に合わなくて(笑)KBSの先生から「戻ってきたらどうか?博士課程の学生はもちろん、大学研究者の仕事は裁量が大きく、子育てとの両立も可能だと思うよ」と言われて、今に至ります。

入山:そうだったんですか。

芦澤:私が大学を卒業するころは就職氷河期にあり、また、就職において男女差が激しい時代でした。それで仕方なくローンを抱えて勉強を始め(笑)、2年かけて会計士の資格を取りました。実はこれが大きな成功体験になりました。この時に「勉強することが、キャリアにおいて大きなリターンを生む」ことに気が付いたのです。

 そして、28歳の時にKBSに入学して再び勉強を始めました。これも当時の私にとっては大きな投資でしたが、その結果、産業再生機構やAPで働くことにつながって、大きなリターンがあったんです。36歳でKBSで再び学ぼうと思った時には、余り悩まなかったです。「この投資が、またキャリアにおいてリターンを生むだろうなと」と確信していました。

 実際、学者になってみると、会社員時代より活躍の場が広がり、大きなリターンがありました。優秀なビジネスエリートがこの世界に入ってきていないことが不思議なくらいです。

入山:おっしゃることはよく分かります、学者は苦労するイメージを持たれる人もいると思うんですが、少なくとも経営学者はまだ仕事のポストもあるし、必ずしもそうでもない。実務界とうまく関われば、金銭的に苦しいということもないですよね(笑)

芦澤:加えて、学者は地味イメージをお持ちの人が多いかもしれませんけれど、社会的インパクトがすごく高い職業ですよね。民間の経営者や役員クラスの人はもちろん、霞が関や地方自治体の人々と日々、次に何をすべきか、どうやってやるべきか、との議論できるわけですから。本当に面白いと思います!

入山:たしかに、大学の先生は会社を背負っていませんし、何を言っても許されるところはありますよね。

芦澤:ただ、この世界に入るなら是非40歳くらいまでに。一緒に学ぶ同期は20代が多く、教えてもらう教授陣には自分と同世代や年下もいる。

入山:もちろん、50代、60代になってアカデミアの世界に入り、研究される方もいらっしゃいます。ただ、優秀でも、実務とアカデミアをつなぐ研究をして、成果を出す……というところまでは、なかなか難しいですよね。

女性研究者としてのキャリア構築

入山:芦澤先生の研究者としてのキャリアについて、もう少し詳しく伺ってもいいですか。お子さんが生まれた後に、大学院に通って博士課程を取り、研究者の道に進まれたんですね。かなりハードそうです。

芦澤:私は、女性のキャリア支援については、熱い思いを持っていて(笑)。女性研究者も子どもが生まれるとキャリアを一度中断したり、諦めたりする人もいます。でも、それはもったいないと思っていて。私は渡邉さんに、「万里子さん、絶対に今を耐えなきゃダメだよ!」って言っていて、できるだけサポートしたいと思っています。

渡邉:実はわが家は、今子どもが2歳。双子なんです。

芦澤:その上、ご両親も遠方にお住まいで、旦那さんも研究者。どう考えてもすごく大変ですよね。私自身が子育てをしながら研究を続けてきたので、同じような立場の研究者を助けなきゃいけないと、もう使命感のように思っていて。前提として、やっぱり子育てをしながら研究をするのは、大変なんです(笑)

入山:子育ては大変ですし、双子はより一層ですよね……!

芦澤:大変な時期はとにかくつなぐこと。子育てはだんだん楽になるので。私は息子が中学生になってすっかり子育ては楽になったので、今は再び仕事のアクセルを踏み込んでいます。アクセルを踏めなかった時代があるので、今は仕事を全力できるのが、ただただ嬉しい。これから社会に貢献できる研究成果を出していきたいです。

入山:今日は芦澤先生の研究内容から、これまでのキャリアのお話まで、実務家出身ならではのお話をたくさん伺うことができました!渡邉先生もありがとうございます、永山先生にもよろしくお伝えください!
 

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動画連載「入山章栄の世界標準の経営理論」はこちら

【著作紹介】

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