3. 自律性とスキルの多様性を重視して仕事を設計する

 職務設計とは、仕事に関連する従業員の義務や責任を明確にすることでもある。過去数十年の研究によると、健康かつ安全な仕事には、従業員に自律性を持たせ、さまざまなスキルを有効に活用することが不可欠だ。これら2つの要素を重視した職務設計は、従業員がその時の能力に応じて仕事のやり方や時間を選択できるため、慢性疼痛のコントロールにも役立つだろう。

 たとえば、筆者ら研究の中である従業員は、自律性があるから仕事を続けられると語っている。「痛みが特につらい日は、与えられた仕事を終えることができません。痛い時は時間と注意力が必要なプロジェクトに取りかからないように、いつも気をつけています」

 こうした自律性は、スキルの多様性と密接に関連している。複数のスキルを必要とする仕事は、慢性疼痛を抱える社員が、痛みを経験している時も機能的に働きやすい。

 製薬会社で営業を担当しているラジは、さまざまなスキルを活かせるおかげで、痛みのために出張に行けない時も仕事ができる。「予定をキャンセルすることはあっても、病欠はしなくて済みます。iPadやノートPCでできることはたくさんあって(中略)忙しく働いています」

 組織の職務設計の責任者は、具体的な設計をする際に、自律性とスキルの多様性が慢性疼痛を抱える従業員をどのように支えられるかを考慮しよう。

 4. 柔軟な働き方を認める

 新型コロナウイルス感染症のパンデミックで企業が学んできたように、多くの従業員は、企業が所有する施設でなくても仕事ができる。すでに大勢の人が在宅勤務に移行している。筆者らの研究によると、全体として、リモートワークはパフォーマンスに大きな影響を与えない。さらに、コラボレーションなど、在宅勤務によって強化される側面もある。

 慢性疼痛を抱える人は、在宅勤務や、身体的なニーズに合わせて勤務時間を調整することによって、生産性を高めることもできるだろう。リーダーは「特別扱い」と見られることを警戒するかもしれないが、柔軟な勤務体制を多くの従業員に広げることは、慢性疼痛を抱える従業員に特にメリットがあるだけでなく、職場全体のエンゲージメントを高めることもできる。

 5. 組織内で慢性疼痛をマネジメントするリソースにアクセスしやすくする

 筆者らの研究によると、従業員は自分の痛みや仕事をマネジメントするためのリソースを、適切なタイミングで必要としている。充実した福利厚生に加えて、痛みをサポートする職場のグループや、人間工学に基づいた備品の購入などは大きな違いをもたらすだろう。

 リーダーは基本的に、職場でリソースを配分し、関連する決断を下す権限を持つ。つまり、痛みに関連するリソースを提供するのに最も適した立場にある。

 では、どのようにすればよいか。米軍をはじめ多くの大規模な組織は、従業員とその上司を対象に、痛みの管理に関する教育を提供し、組織内で痛みの評価を頻繁に行い、痛みを緩和する方法を提供するなど、慢性疼痛をマネジメントするプログラムを導入するようになった

 U.S.フーズは、ウェアラブル技術を用いて筋骨格系の健康状態を追跡するなど、革新的な取り組みを実施している。その結果、痛みに関する保険請求が50%減少した。

 ただし、リソースを利用できるにもかかわらず、従業員が十分に活用していない傾向があることも、筆者らの研究から明らかになった。

 リソースへのアクセスを促すうえで、リーダーは重要な役割を果たすことができる。組織が提供するプログラムでは、従業員が慢性疼痛を経験している可能性に気づく方法や、問題について会話を促す方法、適切なリソースを紹介する方法など、リーダーに向けた明確な訓練が必要になる。

 リーダーは、健康相談を自分の仕事の一部とは考えていないかもしれない。しかし、従業員が自分や職場に影響を及ぼす問題に対処できるように手助けすることは、効果的なリーダーシップの本質でもあるだろう。

 慢性疼痛は、生物学的、社会的、心理的な要素を含む複雑な問題だ。専門家はいまなお、慢性疼痛に対する理解を深めようと努力している最中である。しかし、リーダーにとって、いずれ当たり前に直面する問題になる。ここで提案した5つの実践的な戦略は、従業員と組織の両方にとって役に立つ。

 どんな問題でも同じように、慢性疼痛について効果的なリーダーシップを発揮するためには、従業員の声に耳を傾け、彼らから学ぶことが重要だ。従業員から慢性疼痛を打ち明けられたら、まず彼らを信頼しよう。


"When Someone on Your Team Has Chronic Pain," HBR.org, July 19, 2021.