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一見すると健康上の問題は見当たらなくても、長時間労働や加齢、あるいは遺伝的・心理的な要因などさまざまな理由で、慢性的な痛みを抱えながら働く従業員は少なくない。企業がこうした慢性疼痛(とうつう)の重大性に理解を示さなければ、本人の仕事のパフォーマンスが低下したり、同僚とのあいだでトラブルが生じたりする可能性がある。本稿では、リーダーがこの問題に適切に対処するための5つの戦略を紹介する。


 ジェームズにとって、それは毎日の点検のようなものだった。

 朝、目が覚めると、症状が出ないように、暗がりで横になったままじっと動かない。最初の数分間で、その日はどのくらい痛くなりそうかと予想する。また病欠を取るのも悩ましいが、体力を奪われる痛みを抱えたまま1日を過ごすのもつらかった。

 上司のキアラも、ジェームズがまた病欠した場合の影響を考えていた。チームの貴重な戦力ではあるが、次第に頼りにできなくなった。欠勤があまりに多く、出勤しても標準的なパフォーマンスを発揮できない日が増えていた。

 慢性疼痛(とうつう)は、働く人のあいだでけっして珍しくない。調査によると、ジェームズと同じように、全米の労働者の最大40%が慢性疼痛(3カ月以上、慢性的に続く痛み)を経験していると見られる。これは、癌、糖尿病、心臓疾患を合わせた人数を上回る多さだ。

 労働力の高齢化、長時間労働、過酷な仕事などに加えて、新型コロナウイルス感染症に関連する痛みや、パンデミック下で治療が限られることなどの要因を考えると、慢性疼痛を抱えながら働く人は今後もさらに増えて、そのマネジメントが重要になるだろう。

 慢性疼痛は誰にでも起こりうるが、遺伝的、生物学的、社会的、心理的な要因によって、痛みの感じ方や捉え方は異なる。身体に負担のかかる仕事や慢性的なストレスなどの環境要因も引き金になる。多くの労働者にとって、慢性的な痛みから完全に解放されることは不可能かもしれない。

 したがって、慢性疼痛は、欠勤の増加、仕事のパフォーマンスの低下、集中力の低下、身体的な制限、同僚や顧客にいら立ちをぶつけるなどの問題に関連している

 ある調査で筆者らがインタビューした販売員は、次のように説明した。「痛みのせいで、運転したい距離を運転できません。腰が痛くて、会いたいお客様に会いに行けません。同じ姿勢で長時間、座っていると、とてもつらいのです」。

 小売店の従業員はこんなふうに言う。「他人にいら立ちをぶつけてしまう日もあります。(中略)痛みに疲れてしまい、少し怒りっぽくなる時は、接客業として好ましくありません」

 しかし、慢性疼痛は本人が必死に隠そうとしがちで、症状が目に見えないことも多い。さらに、痛みのない日もあれば、その翌日は完全に衰弱しているという不安定な症状でもある。その結果、キアラのような上司は、明らかな理由がないのに期待通りのパフォーマンスを発揮しない従業員にいら立ちを募らせるかもしれない。

 こうした状況は、従業員にとっても、雇用主にとっても、高い代償になりかねない。生産性の低下による慢性疼痛の経済的コストは、全米で年間推定2160億ドルに上る。これに治療費が加わると、慢性疼痛のマネジメント不足が米国経済にもたらす経済的負担はさらに大きくなる。また、最悪の場合、慢性疼痛を抱える人は治療費がかさみ、働き続けることができず、貧困に陥るだろう。