今回は、第7回で紹介した事業の「稼ぐ力」を高めていくことについて掘り下げていく。投下資本利益率(ROIC)を分解していくのがポイントである。それは、売上高における数量や単価、あるいは売上原価における諸々のコストなどの財務指標だけでなく、工場の操業や店舗のオペレーションなどにおける現場での行動指標まで含めて、競合企業とのベンチマークを行いながら進められる。こうして特定される課題に対応することによって、稼ぐ力を飛躍的に高めていくことができる。

稼ぐ力はROICに表れる

 これまで見てきたように、企業価値の創造は、事業から十分なキャッシュフローを生み出していくことによって牽引される。そのためには、戦略の軸に成長と稼ぐ力が据えられていることが重要であった。そして、ここでいう「稼ぐ力」とは、営業利益や当期利益、あるいは自己資本利益率(ROE)を指すわけではなかった。

 PL&BS一体型思考の基で重要なのは、株主や負債の提供者という投資家から調達した資金による「投下資本」によって事業を運営することで、十分な水準の利益を生み出しているか、ということである。そして、このことを表す指標が、投下資本利益率(ROIC)なのである。

 繰り返しになるが、ROICは、下記のように直感的に理解できる。

・経営者にとっての視点:投下資本を使いながら、企業にとどまることになる利益をどのような水準で生み出しているか。

・投資家にとっての視点:株主および負債の提供者という投資家が提供した資金が企業において事業への投下資本となって運用されることによって、投資家に帰属することになる利益がどのような水準で生み出されているか。

 そして、ROICの水準が、その投下資本の元手になっている投資家からの資金調達における加重平均資本コスト(WACC)を上回る場合に、企業の経営者は企業価値を創造しているといえる。

 このROICについて、筆者が知っている限り日本企業で最も古くは、日産自動車の「2004年度決算報告 日産バリューアップ」(2005年4月25日公表)資料に記載されていた。

 日産自動車は、2000~2001年度を会社を再生させるための経営計画「日産リバイバルプラン」、2002~2004年度を会社の再生を完了し、利益ある成長へ軸足を移動する経営計画「日産180」、そして2005~2007年度をさらなる発展と価値創造に向けた経営計画「日産バリューアップ」としていた。その日産バリューアップの開始時に、ROICを指標として採用していたのである。

 なお、ここでの自動車事業におけるROICの定義は、連結営業利益÷(固定資産+運転資金+手許資金)であり、分母となる投下資本に手許資金を加えているところに注目してほしい。当該資料において、この自動車事業のROICは、1999年から2004年度までに、1.3%、7.5%、12.7%、19.8%、21.3%、20.1%と大きく改善している。

ROIC分解ツリー

 このROICは因数分解のように分解していくことによって、業績の財務的な数字と戦略をつなぐものとして理解していくことができる。たとえば、誰にでも馴染みのあるスーパーマーケット事業について、そのROICを分解してみる(図表11-1「投下資本利益率ROICの分解(ROIC分解ツリー)」を参照)。

図表11-1 投下資本利益率ROICの分解(ROIC分解ツリー)

 ROIC分解ツリーの考え方は、次のとおりである。

 まずは、ROICを、その分子・分母である税引後営業利益と投下資本に分解する。

 そして、税引後営業利益を、営業利益と税金に分解する。さらに、営業利益を、売上高、売上原価、販売費、一般管理費に分解する。

 次に、投下資本を、有形固定資産、無形固定資産、運転資本に分解する。さらに、有形固定資産は、土地・建物や機械・設備など、無形固定資産はソフトウェア、特許や商標権、のれんなど、運転資本は売掛金、棚卸資産、買掛金に分解する。

 ここまでは業績の財務的な数字の分解であるが、さらに戦略的な施策にも分解して検討することができる。

 たとえば、売上高がどのように構成されているかを考えてみよう。スーパーマーケット事業の売上高であれば、どれだけお客さんが来店したかという「来客数」、来店したお客さんのうちどれだけが実際に購入したかという「購入率」、購入したお客さん1人当たりの購入金額はいくらであったかという「平均購入金額」、その購入金額はどのような商品構成によっていたのかという「バスケット構成」……というように分解できる。

 このように、ROICを分解したツリーは、左側から見ていけば業績の財務的なファイナンスの視点によって、右側から見ていけば戦略の視点によって、分析できる。

稼ぐ力にこだわる

 稼ぐ力へのこだわりとは、このようなROICの視点で、投下資本が十分な水準の利益を生み出しているか、さらに改善できる点はないか、それによって事業が生み出すキャッシュフローを増加できないかについて、徹底して追求することである。

 まず、ROICがWACCを上回っていることは、企業価値の創造のための第一歩である。

 そのうえで、投下資本が十分な水準の利益を生み出しているかについては、ROIC分解ツリーにおいて、競合企業の財務諸表や決算関連の公表資料などからベンチマークとなる数字を取得して比較し、自社のどこに改善の余地があるのかを特定することができる(図表11-2「ROIC分解による稼ぐ力へのこだわり」を参照)。

図表11-2 ROIC分解による稼ぐ力へのこだわり

 その際に、競合企業として日本企業のみではなく、グローバルの競合企業も含めてベンチマークの対象とすることが大切である。そうでないと、国内市場の水準で満足してしまったり、あるいは国内市場の特殊性を持ち出して言い訳を始めたりしかねない。また、海外市場にも進出している企業であれば、国内市場では勝っても、本命の海外市場では負け続ける、という悪弊を重ねることになる。

 ROICの分解ツリーについて、これまでも本連載において事例としてみてきた飲料業界の例は、公表データによって作成できる財務的な数字までにとどまるものではあるが、図表11-3「グローバル飲料業界のROIC分解ツリー」のとおりである。グローバルな競合企業と比較することの重要性が、一目瞭然になっている。

図表11-3 グローバル飲料業界のROIC分解ツリー

 こうして、ROIC分解ツリーによって改善すべき課題、そしてそれらの課題の原因がどこにあるのかを特定していく。

 図表11-1のスーパーマーケットの事例でいえば、売上高に課題があるのであれば、下記のような原因を探っていくのである。

・そもそもの来店客数が少ないのか。
・来店客当たりの購入者数が少ないのか。
・購入客当たりの購入金額が少ないのか。

 そして、原因が特定されたら、その原因に関連する戦略を新しく策定したり、あるいは既存の戦略を見直したりして、業績の改善、そして事業からのキャッシュフローの創出を目指していく。

 ただし、戦略における競合企業のベンチマークは、一筋縄ではいかない。そもそも、戦略的な施策についてはデータが公表されていないことが多いからである。

 そのため、スーパーマーケット事業であれば、許されるならば、競合の店舗の前に立って、カウンターやストップウォッチを持ちながら目視によって観察して数字を作っていくなど、実地の調査も必要となる。また、新聞や雑誌における競合企業の経営者や事業幹部のインタビュー記事などを丹念にたどって、戦略的な施策に関連する発言から数字を拾っていくといった地道な作業も必要になってくる。

 このように、稼ぐ力にこだわるとは、ROIC分解ツリーの左側からの財務的なファイナンスの視点で、投下資本により事業から十分な水準の利益を生み出しているかを、グローバルの競合企業とのベンチマークも活用しながら確認していく作業である。

 それと同時に、ROIC分解ツリーの右側からの戦略の視点も活用して、自社の戦略的な施策が、その予定した通りの業績効果を達成して、事業からのキャッシュフローを生み出しているかについて、課題と原因を特定して、徹底した改善を継続的に行っていくことである。

 経営者は、このROIC分解ツリーについて、その大まかなものでもよいので頭の中に置いておきたい。一般のビジネスパーソンであっても、担当事業については同様である。戦略という原因行為から、ROIC、そして企業価値という結果までがどのようにつながっているか、その因果関係の流れを、両方向に自在に意識しておきたい。

Case Study
オムロンにおけるROICの活用

 オムロンは、次の3ドメインとオムロンの発展を支える1事業から構成されている。

・センシング&コントロール技術を核としたファクトリーオートメーション(FA)機器といった制御機器事業などを手掛けるファクトリーオートメーション・ドメイン。

・医療関係者や一般消費者などのユーザー向けに健康・医療機器事業を手掛けるヘルスケア・ドメイン。

・鉄道事業者、道路事業者、住宅メーカなど向けに、駅務・交通機器やその保守・サービスなどの社会システム事業を手掛けるソーシャルソリューション・ドメイン。

・リレーやサーフェスマウントスイッチなどのデバイスモジュール事業を手掛ける電子部品事業。

 オムロンは、世界で初めて無接点近接スイッチの開発に成功したことをはじめ、産業用オートメーション機器に強みがある。自動改札機、現金自動支払機(ATM)などの生みの親でもある。消費者向けでは、健康医療機器で有名で、家庭用電子血圧計は世界トップシェアを誇る。

 オムロンは、「ROICは各事業を公平に評価できる最適な指標」として、「ROIC逆ツリー展開」「ポートフォリオマネジメント」の2つを掲げている。

 ROIC逆ツリー展開は、これまでに見てきたROIC分解ツリーそのものである。事業ごとのROICについて、その要素を業績の財務的な数字から戦略的な施策にまで分解したうえで、現場における活動レベルでの改善点を洗い出していく。そして、ROICを向上させるための現場まで含めた取り組みを検討しながら、改善を進めているのである。

 統合レポートでは、次のように述べられている。

「例えば、ROICを自動化率や設備回転率といった製造部門のKPIにまで分解していくことで、初めて部門の担当者の目標とROIC向上の取り組みが直接つながります。現場レベルで全社一丸となりROICを向上させているのが、オムロンの強みです」(オムロン『統合レポート2020』)

 ポートフォリオマネジメントも、これまでに見てきた売上高成長率×ROICのマッピングである。事業ポートフォリオに複数の事業を持つオムロンにとって、ROICは各事業を公平に評価できる最適な指標として位置づけられている。投下資本に対する利益水準を測るROICであれば、どの事業も公平に評価できるためだ。

 オムロンでは、事業領域をROICと売上高成長率によって、S領域(ROIC10%以上、成長率5%以上)・A領域(ROIC10%以上、成長率5%未満)・B領域(ROIC10%未満、成長率5%以上)・C領域(ROIC10%未満、成長率5%未満)に区分している。

 統合レポートでは、次のように述べられている。

 「全社を約60の事業ユニットに分解し、ROICと売上高成長率の2軸で経済価値を評価するポートフォリオマネジメントを行っています。これにより新規参入、成長加速、構造改革、事業撤退などの経営判断を適切かつ迅速に行い、全社の価値向上をドライブしています」(同前)

 もちろん、これらのROIC逆展開ツリーの結果やポートフォリオマネジメントのマッピングの結果は公表されていないが、この統合レポートにおける記載からは、稼ぐ力にこだわったROIC経営が徹底されている様子がうかがえる(図表11-4「オムロンのROIC推移」を参照)。

図表11-4 オムロンのROIC推移

稼ぐ力を高める際に陥りがちな3つの罠

 稼ぐ力を高めようとしたとき、多くが失敗しがちな3つの罠についてここで紹介しておこう。

 1. 組織を作り替えるだけで終わってしまう

 ・組織を考える「7S」

 日本企業では、「競合企業A社が営業強化のために組織を変えたようだから……」「最近、なんだか士気が上がらないから……」といった曖昧な理由で、組織体制の改変を行うところが多い。たとえば、事業の括りを変更して事業部や事業部門を再編する、あるいは事業を主軸にしていた組織体制を営業を主軸にした組織体制に再編する、などである。稼ぐ力を高めようとする場合に、往々にして見られる光景である。

 それなのに、そうして組織体制を改変しても、思ったほど士気は上がらず、稼ぐ力も高まらず、業績も上向かないままといった結果に終わることは多い。そして、また新たな組織体制への改変を繰り返していくのである。

 組織のあり方を検討するうえで有効なのが、「組織を考える7S」というアプローチである(図表11-5「組織を考える「7S」」を参照)。

図表11-5 組織を考える「7S」

 企業には共有価値観(Shared Value)があり、その共有価値観を実現していくための戦略(Strategy)が策定され、その戦略を実行していくために必要な組織スキル(Skill)が特定されて、その組織スキルを持つ単位としての組織体制(Structure)が設計され、その組織体制を動かしてくための組織運営の仕組み(System)が作られて、そこに人材(Staff)を当てはめていき、その結果として社風(Style)が生まれる、というものである。

 このことは、製薬企業を例にして考えるとイメージが湧きやすい。いわゆる新薬開発・販売の企業と、ジェネリック(後発)薬品販売の企業である。

 共有価値観は、両者とも「病を治す」ということで同じであろう。それでも、両者の戦略は、これまで治っていない病を治す新薬を開発して販売していくのか、あるいは、すでに有効な薬を安く広く普及させていくのか、で異なる。

 そうすると、主たる組織スキルが前者は研究開発力、後者は営業力という相違が生まれる。同様に、組織体制は研究所型か営業拠点型か、組織運営には特許件数型か売上高・利益型か、人材にも研究者型か営業マン型かという相違が生じる。これらの結果として、社風にも象牙の塔のアカデミックな雰囲気か体育会系の活発な雰囲気かという相違が生まれてくるのである。

 ・組織の課題を解く順序

 先の製薬企業の例でも明らかなように、組織体制は戦略やその実行に必要となる組織スキルを持つ単位として設計されるべきである。また、組織運営の仕組みなしでは、意図した目的のとおりには組織は動かないのである。

 日本企業では、たとえば稼ぐ力の向上のためなどで、組織についての課題を感じる順序のまま、この7Sの中央にある、狭義の組織体制だけに闇雲に手を付けて、組織改編を繰り返している場合が多い。組織についての課題を解く順番は、戦略、そして組織スキルという上流から進めるべきである。

 稼ぐ力の向上においては、まず、そのための事業戦略を具体的にアクショナブルに策定することが大切である。また、稼ぐ力を高める戦略を実行するための組織スキルの構築と展開をないがしろにしないことも大切である。さらには、稼ぐ力を高めることが、どのようにインセンティブづけされ評価されるのかなど、組織体制だけでなく業績評価をはじめとする組織運営の仕組みまで一緒に考えていかなければならない。

 狭義の組織体制を組み替えただけで、一気に営業力を強化するんだ、とにかくコストを下げるんだ、できるだけ経費を削減するんだ、少しでも生産ラインで歩留まりを上げるんだ、といった漠然とした指示にとどまってはいないだろうか。そのように目指す水準も必要となるスキルも明示されないまま稼ぐ力を高めようとする取り組みは、ゴールのないマラソンを装備も兵糧もなく続けるようなものである。

 2. 現場の人材が思ったように動いてくれない

 稼ぐ力を高めようとする取り組みにおいて、戦略部門が思った通りには現場の人材が動いてくれない、あるいは動くことができないという事態がしばしば起こりうる。

 たとえば、人材をやる気(Will)とすきるスキル(Skill)によって分類してみよう(図表11-6「ウィル will/スキル skill マトリックス」を参照)。

図表11-6 ウィル will/スキル skill マトリックス

 これらのうち、やる気もスキルもある人材と、やる気もスキルもない人材の取り扱いは、日本企業において、ある意味で明確だ。

 やる気もスキルもある人材には、任せることが多い。もちろん、その実態は、上司からの仕事の丸投げになっているだけのこともあるが、いずれにしても「信頼して任せる」取り扱いである。やる気もなくスキルもない人材には、手取り足取り言った通りやってもらうということになっていることが多い。「言ったとおりにやらせる」のである。

 これに対して、やる気はないがスキルはある人材、やる気はあるがスキルはない人材の取り扱いが、日本企業は苦手である。

 やる気はないがスキルはある人材は、普段はダラダラしているが、仕事をさせると手際はよいというような人材である。やる気はあるがスキルはないという人材は、いわゆる空回りしているような人材である。前者にはいかに「やる気にさせる」か、後者にはいかに「やり方を教える」か、が大切になる。稼ぐ力を高めていく場合においても、同様なのである。

 ここで必要なのが、いわゆるメンターやコーチである。ただ、日本企業における社員教育は、伝統的に集合研修が中心で、日常的なケアをするメンターやコーチは存在してこなかった。また、最近になってメンターやコーチを導入している企業でも、実態としては先輩社員が後輩社員に「目を掛ける」こと以上になっていない場合が多い。

 こうした課題を乗り越えて、社員みな総出で一丸となって稼ぐ力を高めていくためには、日本企業においても次の3つがポイントとなる。

(1)それぞれの立場で戦略に基づく職務説明(ジョブ・ディスクリプション)を明確化して、その立場での仕事内容と必要なスキルと業績評価項目を明確化する。

(2)人事部による研修の枠を超えて、日々の日常的なメンターやコーチを導入して支援していく。

(3)メンターやコーチが持つべきスキルや支援内容も明確化しておく。

 3. リーダーが見当たらない

 稼ぐ力を高めていくにあたって、これまでは、たとえば部長、課長、係長、主任、担当者というヒエラルキーの下で、役職の職位がそのまま上下関係になって、いわば上意下達で動かそうとしてきた。そのため、稼ぐ力を高める現場で、どうしても「指示する人」と「指示される人」に分かれてしまい、現場の社員それぞれがモチベーションを高く持って、稼ぐ力を向上させる取り組みを前向きかつ積極的に進めるということができない事態が起こってきた。

 これだけ世の中が速く大きく動く時代にあって、稼ぐ力を高めるためには、現場まで含めて、社員の皆がリーダーシップをもつことが、何よりも大切である。組織の階層や役職には関係なく、誰もが、自分自身の強みを活かして、まさに社員のそれぞれがリーダーとなって稼ぐ力を高める取り組みを推進していくことが必要なのである。

 そもそも、リーダーシップについて、経営学の世界ではいくつかの類型があるとされている(図表11-7「リーダーシップの類型」を参照)。

図表11-7 リーダーシップの類型

 まず、リーダーシップは、先天的なものであるとする類型が生まれた。カリスマリーダーシップとは、いわゆるカリスマとして、威容、威厳、類いまれな能力などを備えた者が、それらによって、周囲に対してリーダーシップを発揮していくというものである。

 次に、リーダーシップは、後天的なものであるとする類型が生まれた。ここでは、リーダーに対してフォロワーを想定している。

 トランザクショナルリーダーシップは、フォロワーがリーダーのために働き、それに対してリーダーが給与や昇進などの報酬を与えるという、取引(トランザクション)を想定するものである。いわば、鎌倉時代の「御恩と奉公」ともいえるモデルで、日本企業では一般的である。

 トランスフォーメーショナルリーダーシップは、リーダーがフォロワーに対して変革(トランスフォーメーション)として目指すべき姿や目指すべき目標を示すにとどめ、その姿や目標へ到達するための方法や道筋はフォロワーに任せつつ、フォロワーに対する支援を行っていく。いわば、「お釈迦さまの手の上」というイメージである。

 これらに対して、最近では、リーダーとフォロワーという前提を置かず、全員が、それぞれの強みを持つ分野でリーダーとなって、みんなで一丸となって進んでいくというシェアードリーダーシップという考え方が生まれている。いわば、「キリストの12使徒」に似たイメージである。

 日本企業では、リーダーシップといえばトランザクショナルリーダーシップが想起されることが多い。これでは、「指示する人」と「指示される人」という関係を脱却できない。世の中の変化が速く大きくなる中で、稼ぐ力を継続的に高めていくには、組織の階層や役職には関係なく、トランスフォーメーショナルリーダーシップ、そしてシェアードリーダーシップが求められる。

 特に、社員それぞれの強みをベースとしたシェアードリーダーシップのために、これまでの日本の教育制度に見られたような、各人の弱みや苦手を平均点レベルまで底上げしてオールラウンドに平均点をとるような人材を育てていくのは非効率である。特定の強みや得意をダントツの水準に発展させ、それを発揮できるように人材を育てていくべきである。そして、そうした社員が、それぞれの強みを持ち寄って、チームとしての集合知によって創意工夫を行い、稼ぐ力をどんどん高めていける状態が理想である。

戦略としての企業価値 目次

はじめに
第1回 戦略としての企業価値:いまこそ求められる思考とスキル

第Ⅰ部 企業価値のポイントを押さえる
第2回 経営をお金の流れで理解するPL&BS一体型思考
第3回 企業価値評価の基礎知識(1)フリーキャッシュフローと金利・割引
第4回 企業価値評価の基礎知識(2)DCF法とマルチプル法
第5回 企業価値の源泉は「成長」と「稼ぐ力」である

第Ⅱ部 企業価値を戦略に落とし込む
第6回 企業価値を生み出す戦略の全体構造
第7回 「成長」と「稼ぐ力」を追求する戦略をいかに策定するか
第8回 メガトレンドに乗って持続的に成長する
第9回 事業ポートフォリオを再構築する
第10回 M&Aと事業売却をどのように活用すべきか
第11回 ROICの視点で稼ぐ力を高める
第12回 機能スキルによって稼ぐ力を高める(10/26公開)
第13回 デジタルとアナリティクスで稼ぐ力を高める(10/27公開)

第Ⅲ部 企業価値と戦略を自己検診しながら進んでいく
第14回 セルフ・デューデリジェンスによる自己検診と経営改革(10/28公開)
第15回 企業価値と戦略の効果的なコミュニケーション(10/29公開)

補論
第16回 企業価値創造経営の実現に向けて乗り越えるべき3つの課題(11/1公開)

注:本連載における個別企業についての記載は、すべて公表されている情報のみに基づくものである。それらの記載は、当該企業の経営について何らかの評価を行おうとするものでもない。本連載における企業価値の算出などは、あくまで簡易な例示であって、その正確性を保証するものではなく、何らかの投資や売買などを推奨するものでもない。本連載における見解は、すべて筆者個人のものであり、筆者が所属あるいは関係する企業や機関や学校の見解や意見ではない。