個性豊かな社会こそ、共有できるビジョンとリーダーシップが必要

青井遥
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ライフサイエンス&ヘルスケア マネジャー

製薬企業の事業・領域戦略策定、研究・開発・営業機能の組織・オペレーション・人材改革などの経験を有しており、近年はヘルスケア領域におけるビジョン・戦略策定や事業創出の仕組み構築を手掛ける。2018年より京都大学とデロイト トーマツ グループの共同研究「社会変革型医療データサイエンティスト育成プログラム」へ参画。

青井 データの標準化やトラッキングという解決すべき課題に加え、データへのアクセスが限られている現状では、自然にいいアウトカムが得られることは期待しにくい。まず行動を起こすことが肝要ですが、こういった前競争領域での環境整備は企業単独では実現不可能ですし、データ自体がセンシティブな情報であるため、規制や国民世論と歩調を合わせる必要があるという難しさもありますね。

奥野 大学や民間企業ではいろいろな利害関係がからむので、公共財としてのデータ整備を進めることはできません。データは国民のために使う、データ活用によってこういう社会を実現していくというビジョンを国が明確に示して、公共事業として取り組むしかないと私は思います。

 AIの開発にしろ、データ活用にしろ、この10年ほどで中国は世界の先頭に躍り出ました。もちろん、民主主義かそうでないかという政治体制の違いは大きいですが、日本だって国として本気になれば、10年単位で大きく変わることはできるはずです。逆にいうと、いま本気にならないとますます差を広げられてしまいます。

青井 国には、データ利活用の現状に対する健全な危機感を醸成し、変革に向けた旗振りを務めていくリーダーとしての役割を期待されているということですね。奥野先生は日本がどんな国になってほしいとお考えですか。

奥野 月並みですが、一人ひとりが個性豊かに、人間らしく暮らせる国ですね。そのためにも、データを活用するとか、機械に任せるところは任せるといったことが必要ですし、そうなっていくと思います。

 一人ひとりが個性や独自性を発揮して、ばらばらの方向に進むと統率が取れなくなりますし、お互いに協力しながら価値を生み出していくことができなくなります。だからこそ、みんなが共感、共有できるビジョンが大切ですし、そのビジョンに基づいてみんなを引っ張っていくリーダーシップが必要です。

青井 そういう国にしていくためには、世界に通用する教養を身に付けることはもちろん、若いうちから多様な個性に揉まれ、みずからの個性に気付いたり、リーダーシップを身に付けられるような教育機会が必要になりますね。

奥野 おっしゃる通りだと思います。個性豊かだけれども、いざというときに統率が取れる社会というのは、個人の教養レベルが高い社会だと思います。社会全体の利益を考えたとき、個人の利益や都合より優先すべきものがあると判断できるか、あるいは、利己主義に走ることが恥ずかしい、格好悪いと思えるかどうか。そこは、個人の教養に大きく左右されるからです。

 公共の利益のためにリーダーシップを発揮しようとしている人の足を引っ張るのも、要は教養が不足しているからではないでしょうか。

青井 確かに近年は、リーダーシップはリーダーだけでなくメンバー全員が備えるべきものである、という考えが企業の中でも実践されてきています。リーダーに求められる資質についてはどうお考えになりますか。

奥野 これも月並みかもしれませんが、基本的には志とプリンシプル(原理原則)でしょうね。絶対的な正解がない中で、自分がこうあるべきだと思う志、ビジョンを示して、ぶれずに原理原則を貫いていく。そういうリーダーでないと、人は付いてこないでしょうし、大きな変革はできないと思います。

西上 日本の未来をつくるのはいまの若い人たちですが、私が気になっているのは、みずから何かを切り拓くことへの渇望感が諸外国の若者に比べて低いのではないかということです。たとえば、新しいものを取り込んでいこうという意欲で言うと、我々が毎年行っているミレニアル世代・Z世代に対する国際調査でも、日本の若者は海外に比べてデジタルへの関心やリテラシーが低いという結果が出ています。

奥野 それも教育の問題でしょうけれども、海外からの留学生に比べると新しいことに取り組む貪欲さには歴然とした差がありますね。

 ですから、私が学生たちによく言っているのは、失敗を恐れずに難しいことに挑戦しなさいということです。一方で私たち大人は、チャレンジしたことを褒める社会にしていかなくてはいけません。子は親の鏡といわれますが、若い人たちが失敗を恐れるとか、未来をつくることへの渇望感がないとしたら、親世代である我々の責任です。

 一方で、いまは誠実で純粋な学生が多いですし、私たちの世代のようにひねくれたところがなくて、他人への共感力が高い。若者たちのそういういいところを活かしながら、リーダーを目指す気概を持つ人を増やしていく仕組みや文化をつくるのは、我々世代の責任だと思っています。

西上 おっしゃる通りだと思います。みずから夢を抱き、オーナーシップを持ってトライし続ける。その過程で失敗を繰り返しつつも、それを糧に粘り強く1歩1歩進んでいく。そのような人材が1人でも多く育つ日本であってほしいと思いますし、そのような人材をサポートできるような環境が日本にあってほしいと思っています。より良い未来を創っていくために、私もそういう責任を持つ大人の一人として、挑戦する若者たちをバックアップしていきたいと思います。