短期的な財務利益でなく
長期的な社会利益を求めよ

 では、具体的にどのように進めていくべきなのか。図の通り、國部教授は、「まず『最低限の取り組み』と『戦略的な取り組み』がある」と指摘。

 最低限の取り組みとしては「上場企業であれば、まずはESG経営に関する情報開示をしっかりと行う必要がある」と語る。

 情報開示をするには、少なくとも環境マネジメント体制を整える必要がある。PDCAを回す仕組みがなければ、開示できても改善することはできない。

 ただし、「日本にもサステナビリティ報告書や統合報告書を出している上場企業はありますが、データの開示と抽象的な説明にとどまっていることが多く、どのような成長戦略を描き、社会にどんな価値がもたらされるのかということまで言及している報告書は少ないようです」と國部教授は見る。株主以外のステークホルダーにもたらされる価値も明確に示さないと、市場から受け入れられなくなるリスクがある。

 戦略的な取り組みについては、先ほど國部教授が指摘したように、事業規模や事業内容によって異なってくる。

「グローバルに事業展開する企業なら、サステナビリティ報告書のガイドラインを制定している国際的な非営利団体であるGRIスタンダードを採用したり、事業を再生可能エネルギーで100%賄うことを目標とするRE100などの世界的なイニシアチブに参加するという方法も考えられるでしょう」(國部教授)

 もちろん、成長戦略として描くのであるから、自社の製品やサービスを、どのようにESGに対応させるのかを考えるべきなのは言うまでもない。

 そこで視野に入れたいのは、単なる商品・サービスの改善だけでなく、その生産や物流、販売によって生じる環境負荷なども抑えることである。

 國部教授は、「DX(デジタルトランスフォーメーション)やSX(サステナビリティトランスフォーメーション)を活用しながら、バリューチェーン全体を最適化する戦略を描くのが望ましいといえます」と提言する。

 最後に國部教授は、「戦略的なESG経営を実践する上では、CEOなどの企業トップが、短期的な財務利益だけでなく、中長期的な社会利益を追求するという覚悟を決めることが最も大切です」と語る。

 ESG経営を戦略的に推し進めて社会価値を提供し続ければ、やがてそれは中長期的な財務利益にも結び付く。そうした確信と覚悟のもとで明確な指針を示せば、社員は本腰を入れてESGに取り組み始める。

 また、「ESG重視のトレンドが大きく変わることはありませんが、そのための政策や技術については、時代とともに変化することもあり得ます。そんな予測不能な事態に備えて、戦略の代替案を用意しておくこともお勧めします」と國部教授はアドバイスする。