(2)プロフェッショナルな基準に沿ったリスク便益分析を行う

 最初のステップは、ワクチン接種を義務付ける場合と義務付けない場合のリスク便益分析を行うことだ。そうした分析は、そのテーマの専門家、つまり状況を正確に分析できる人物によって行う必要がある。この点は極めて重要だ。

 私たちのリスク便益分析で投げ掛けた問いは、次のようなものだ――いま用いられているワクチンで新型コロナウイルス感染によるリスクが低下することの恩恵は、深刻な副反応が生じるリスクによる弊害を上回るのか。その点、米国食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可により認可しているワクチンは、非常に有効性が高いものと言える。

 ファイザー/ビオンテック製ワクチン、モデルナ製ワクチン、ジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンは、発症予防効果がそれぞれ95%94%72%に上る。いずれも、新型コロナウイルス感染症による入院と死亡をゼロ近くまで減らす効果もある。これはFDAがこれまでに認可している馴染みのワクチンの多くと同等、もしくはそれ以上の効果だ。

 これらのワクチンは、英国株(アルファ株あるいはB.1.17)と南アフリカ株(ベータ株あるいはB.1.351)ブラジル株(ガンマ株あるいはP.1)カリフォルニア株(B1.427とB1.429)、そしてその他の変異株ウイルスに効果があるとわかっている。

 このような効果が実証されているうえに、これらのワクチンは驚異的に安全性が高い。本稿執筆時点で、世界中での接種回数は21億回を上回る。研究者、政府機関、監視団体がそれに厳しい目を光らせてきた。

 ワクチン接種を完了した62万7383人のリアルワールドデータによると、副反応が発生する割合は以前の臨床試験よりさらに小さい。副反応を経験した人は4人に1人に満たなかった。ほとんどの場合、症状は頭痛、発熱、倦怠感に留まる。深刻な副反応(入院が必要になったり、入院中に接種を受けた場合の入院期間が延びたり、障害が生じたり、死亡したりするケース)は極めて稀だ

 それに対し、新型コロナウイルス感染症による死者は、世界保健機関(WHO)の公式な統計によれば、本稿執筆時点で390万人を突破している(死者数はもっと多いとする推計もある)。加えて、患者の3分の1は長期にわたる後遺症に悩まされる。後遺症の中には、心臓血管系、肺、腎臓、皮膚、神経系、自己免疫系の問題などが含まれる。

 現在用いられている新型コロナウイルス・ワクチンは、新型コロナウイルス感染症による急性と慢性の症状、コロナ後遺症による「生活の質」の落ち込みと比べれば、極めて安全性が高いと言えるだろう。

 ワクチン接種を済ませた職員は、患者や同僚に新型コロナウイルスを感染させるリスクがはるかに小さい。その結果、地域コミュニティに及ぼす社会的・経済的な害も小さくなる。

 ワクチン未接種者が周囲にウイルスを感染させることの危うさを浮き彫りにしたのが、2021年3月にケンタッキー州の老人ホームで起きた出来事だ。その施設では、ワクチンを接種していない従業員1人が爆発的な感染を引き起こし、従業員20人と入居者26人に感染させてしまった。これにより2人が命を失った。死者を出したこと、そしてコミュニティに取り返しのつかないダメージを及ぼしたことには、その従業員と組織の両方に責任がある。

 ワクチン接種の義務化を検討する際は、ワクチン未接種の従業員が生む可能性のあるリスクについて考えるべきだ。職場には、そのような害を小さくするための戦略を実行する責任がある。