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成功者のノウハウを模倣することで自分も成功する確率が高まる、という考え方は根強い。しかし、その人の幸運までは真似ることができない。現実には運という要素が成否を左右するにもかかわらず、その影響力が過小評価されているのだ。反対に、あらゆる成功を幸運によるものだと片付けてしまう人もいるが、これも問題だ。本稿では、運が果たす役割に対して、多くの人々が抱くバイアスを明らかにする。


 2000年代はじめ、オークランド・アスレチックスが打ち立てたにわかに信じがたい連勝記録の内幕に迫った、マイケル・ルイスによるノンフィクション『マネー・ボール』の一場面で、米大リーグきっての貧乏球団のゼネラルマネジャー(GM)だったビリー・ビーンは驚くような発言をする。彼の統計分析はプレーオフには通用しないと言ったのだ。プレーオフの勝敗は運で決まる、と。

 ビリー・ビーンの表現はもう少し下品だったが、ここで重要なポイントは、もともと不利なゲームに創意工夫で勝利したものの、運や無作為性はいかなる職業にもついてまわる要因であり、それは野球も例外ではないと、ビーンが理解していることだ。

 そして運のよさは、アスレチックスの成功譚に一度ならず貢献した。『マネー・ボール』はデータ分析が勝利した例として語られることが多いが、データ分析だけでアスレチックスの成功を十分に説明することはできない。選手のデータも、そのデータを分析する手法も、何十年も前から誰でも手に入れられるものだったのだから。

 ビーンの成功を後押ししたのは、ライバル球団がアスレチックスの連勝は幸運のおかげだと早合点するか、運など完全に無視するかのいずれかに偏る傾向があったからである。

 その傾向には、いくつかのパターンが見られた。