澤田 新型インフルエンザが流行した際に、国産ワクチンの開発・生産を援助する国の制度ができたのですが、国が資金を出した製造サイトは、新型インフルエンザワクチン以外の製造は認められませんでした。

 そうなると、新型インフルエンザワクチンの需要がないときには、製造設備は休眠状態になってしまい、運用維持のための費用負担が企業にのしかかります。ですから、企業としては、そのような状況下の資金援助を受けることを躊躇します。

 今回は日本政府も、先ずはCOVID‐19向けのワクチンを生産する設備として資金援助をしてくれていますが、平常時は自社製品の生産に使えるという枠組みにしてくれています。一時的に大量生産できる体制をどう整えるかというのは企業にとっては非常に難しい問題です。海外では、どの工場が何をどれだけ作れるのかという情報を政府が把握して、緊急事態になったとき工場ごとに具体的な生産要請をしている事例もあるそうです。そういう情報管理も今後は必要なのではないでしょうか。

本間 製薬企業が医薬品の製造販売の承認申請のためにPMDA(医薬品医療機器総合機構)に提出している情報を整理してデータベース化して管理すれば、日本でもある程度はそうしたきめ細かい要請を速やかに行うことも可能だと思います。

データは未知を既知に変えてくれる。その価値の重要性に気づくべきだ

西上 歴史に「If(もしも)」はありませんが、過去に戻れるとするとCOVID19関連だと何にチャレンジしたいですか。

澤田 COVID‐19以降でやりたかったことは(新型コロナの集団感染が起きたクルーズ船)「ダイヤモンド・プリンセス」号のコホート研究(*)でしたね。現場はそれどころではなかったのだろうとは思いますが。

*同じ属性または外的条件におかれた集団(コホート)の観察研究。たとえば、ウイルスが感染する可能性が高い環境にいた集団と、そうではない集団を追跡し、感染率や死亡率などを比較したり、どのような要因を持つ者が感染しやすいかを究明したりする。
西上 慎司デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 ライフサイエンス&ヘルスケア パートナー

民間シンクタンクを経て現職。製薬、医療機器メーカーを中心に、マネジメント変革、グローバル組織設計、デジタル戦略・組織構築などのプロジェクトを手掛ける。ヘルスケアの未来像を描いた「データドリヴン・ライフブリリアンス」の監修など、講演・寄稿多数。

 船内では感染の機会の評価も行いやすく、全員を追跡調査すれば、接触から発症までの期間であるとか、発症後に重症化しやすい人の特性であるとか、ナチュラルヒストリーのデータを蓄積、分析できます。変異株では大きくプロファイルが変わって来ますが、感染症対策を立案するうえで、非常に重要なベースのエビデンスを構築できたはずです。

西上 科学的根拠に基づいた感染症対策の施策を立てられたかもしれませんね。データが新しい価値創造に必須であり、コホート研究を起点に新しい価値提供を模索することに強く共感します。

澤田 ナチュラルヒストリーのデータを集めて、それを世界中に発信していれば、政府やアカデミア、製薬企業などさまざまな英知を集めて、もっと有効な対策を打てたかもしれません。感染症拡大を予測しようと思うと、ナチュラルヒストリーがどうしても必要なのです。将来的な感染症予防という点でも、非常に有益なデータになっていたと思います。