世界の経営学は、
スター社員の「観測」で止まっている

入山:服部先生が取り組まれているスター社員の研究で、他にも何かおもしろい発見はありますか。

服部:先日海外のジャーナルに掲載された論文があるのですが、そこでは、スター社員の扱いについて執筆しました。例えばスター社員が特別扱いされると、本人にとってはハッピーだけれど、周りはアンハッピーになって様々な問題を引き起こしてしまう場合があります。そうしたスター社員の扱いについて、日本、シンガポール、タイの3カ国のデータで比較したものです。

 特別扱いすると、日本ではコミットメントの低下や離職につながってくるのですが、シンガポールでは統計的には有意でもエフェクトサイズ(X→Yの因果関係において、XがYに与える効果の大きさのこと)はかなり小さくなります。

入山:「スター社員の特別扱い(=X)」のもたらす効果を、エフェクトサイズで三つの国を比較したわけですね。その被説明変数(=Y)は何を使っているんですか。

服部:例えば会社からのドロップアウトやインテンション、あとは情緒的コミットメントのような心理的なものです。要は会社との関係性です。統制変数として国の状況や、周りがどのぐらいそれをやっているかを入れて、スターと呼ばれる人たちをいろんな角度から掘り下げました。

入山:服部先生の論文では、スター社員がもたらす影響は研究されていても、「これまでの先行研究では、スター社員をどうやって育てるのかの研究はあまりされてこなかった」と書かれていますね。その部分に関しても、服部先生は何か研究をされていますか。

服部:おっしゃるとおりで、海外の研究室では、言葉遊びで“Star Gazing”、天体観測と言っているんです。その人たちがどんなインパクトを与えるかは研究していても、どうやって生まれるのかという“Star Formation”がない。ここは理論的にも経験的にも研究の大きな穴になっています。

 この部分に関しても、現在研究を始めていて、日本のメーカーの社員たちを採用から追いかけています。まだ3年目ですが、この期間を延ばしていくことで、どの段階でパフォーマンスの差が開いていくかも見ようとしています。

入山:それぞれの研究が発表されるのも楽しみです。

後編へつづく)

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