「スター社員」から考える、人の優秀さの定義

入山:いま、服部先生が研究の中心に置かれているのは、「スター社員」についてですよね。

服部:そうです、スターと言われるような人材の優秀さが、どう顕在化されてくるかに関心があります。いま英語の論文を書き始めているのですが、そこでのテーマはスター社員と呼ばれるような優秀な人材の評価が、経年でどう変化していくかというStar Employee Researchについて扱っています。

入山:『一橋ビジネスレビュー』に書かれた論文『日本企業における「スター社員」の実態に迫る』(2021年春号)がまさにそのテーマですね。

服部:はい。海外では、ホワイトカラーの中でも、個人で会社全体にインパクトを与える人が現れています。例えば、その1人が会社を辞めるだけで、株価に影響が出るような人材です。一社員の力を、「ミクロレベルは全体に影響を与えない」と捉えるのではなく、「無視できない」とする仮説が立てられるのではないかと思っています。

 まず、そうした企業内で平均をはるかに上回る成果をあげる社員を「スター社員」と定義して、他の社員との違いに注目をして研究を進めています。

入山:論文の実証研究では、スター社員にとって大事なのは、「心理的資本」(個人のポジティブな心理的発達状態、自信や現在・未来へのポジティブな帰属、目標に向かう力、問題や逆境への耐性など)や「人的資本」(知識、能力、スキルなど)で、いわゆるネットワークのような「社会的資本」は関係ない、という結果になっていますね。

服部:日本のデータで統計的に分析した結果によれば、そうです。ただし、海外では違う結果も出ています。スター社員といえども1人で物事を成し遂げるのは難しく、社会的資本が必要になったりもします。あるいはハイパフォーマーでも、会社を移るとガタ落ちになるという調査結果も報告されている。

 一方で、チームごと引き抜いてくると、パフォーマンスが維持されるという結果もあります。人は周りとの関係が保持されて、初めてパフォーマンスが維持されるということです。このあたりはもう少し掘り下げて研究したいところです。

入山:このあたりを深く考えることは、実務にもすごく示唆がありますよね。いま、日本の大企業が改革を試みる時、外から優秀な人を採ってくることも多い。私の知見では、その最大の弱点は「1人だとドン・キホーテになって孤立してしまう」ことです。

 私はこの研究は知らなかったのですが、個人的な経験から、「外からスターを1人だけ連れてきても意味がない、まとめてチームで連れて来たほうがいい」という話を、よく企業の方にしていました。

服部:スター社員たちに焦点を当てた研究は、突き詰めると、「人の優秀さとはどういうことか」「人の優秀さとはどこに宿るのか」という深い疑問を解くことにつながります。

 世界の研究で何となく分かってきたのが、個人の人的資本がすごい人ももちろんいるけれど、生存確率はかなり低く、うまく連れてこないと根づかないということです。結局、人の優秀さとは、個人のすごさだけで決まるのではないだろうと。一方、集団で移ってくると根づくということは、人の優秀さは関係性の中に宿っていると捉えるべきなのではないかという論があります。

 このあたりを日本の文脈で実証してみたいと考えています。ただ、個人とチームどちらがパフォーマンスを左右するのかは、業務のやり方や種類にもよるでしょう。相互作用の大きい業務だと、間違いなくチームのほうが良いと思いますが、スポーツだとどうなのか。例えばサッカー的というか、個々人の役割が多分に曖昧な協働の場合と、野球のように各人の役割がかなり明確になっている協働の場合とでは違うのかとか、そのあたりの変数を統制できたらおもしろいと思っています。

入山:スポーツのデータを使って研究するのは、ありえますよね。いま海外の経営学、例えばアメリカではスポーツ系のデータがたくさん取れるので、学者が研究しやすくなっています。私がアメリカにいた頃も、NBA選手やハリウッドのプロダクションチームのデータを使った研究論文をよく見かけました。監督はこの人、プロデューサーは彼、脚本はあの人などとチームを構成します。公開データがたくさんあるので、みんなよく使っていましたね。

服部:そうした話を入山先生にぜひ発信していただきたいです。日本で企業以外の事例を研究で使うと、キワモノ扱いされてしまうこともあるんです(笑)ハリウッドの組織を分析して、それが経営現象にもつながるという研究があったとしても、「彼はハリウッドの研究をしている○○さんだよね」と、そちらでラベリングされてしまうんですよね……。

入山:それはもったいないですね(笑)。