企業文化はDXの成功を大きく左右する、というのは正しいでしょうか。チーフ・デジタル・オフィサー(最高デジタル責任者)として成功するうえで、文化と人材の問題に対処することはどれほど重要ですか。

 DXとは、必要なデジタルスキルを持つ一握りの人ではなく、多くの人々を動かすことです。だからこそ、文化はとても重要です。

 最高幹部の一人として就任するにあたり、私はまず、コミュニティの一員として認められる必要がありました。イケアの発祥の地はスウェーデン南部です。会社が重んじる価値観は、勤勉さ、謙虚さ、堅実さ、強い起業家精神で、社員は会社のために求められる以上の努力をします。私も同じ価値観を共有していることを、行動を通じて示さなければなりませんでした。

 そのうえで、社員と顔を合わせ、心を奮い立たせるビジョンを伝えることが重要でした。最後に、社員が実行の過程を自分で確認できる、シンプルなステップを提示する必要がありました。

 ほかにも変革におけるリーダーシップの要件があります。心をオープンにして、多くの物事が可能だと信じること、そして人材の重要性を認識し、彼らと一緒に変革の道を歩んでいくことです。

 私はいつも社員に、「我々はこれこれこういうことをやって、成功させます」と言います。非現実的なわけではありませんが、むしろこういう言い方で、目指す目標は達成可能だとチームに知ってもらうために背中を押しているのです。

 そして、自分の身も心も――弱い一面も含めて――職場に持ち込むことも重要です。パンデミックの時期にはなおさらでしょうね。「私だって人間で、いまはつらい」と言うことで、ほかの人たちも弱みを見せることができるようになります。人間らしくなることを社員に許容しても、リーダーシップが弱まることはなく、むしろ信頼を築くうえで重要なステップだと私は考えています。

 AR(拡張現実)とVR(仮想現実)は、イケアの未来に向けた計画の中でどんな役割を果たしますか。

 重要な新技術として、テストと試用をしていく必要があります。家具が部屋にどうフィットするかを視覚化するために、店舗でVRをテストしています。

 最近、ジオマジカル・ラボというカリフォルニアの会社を買収しました。彼らの新しい人工知能(AI)技術を用いて、家の視覚化を段違いのレベルに高めるつもりです。自宅を1部屋ずつスキャンし、3Dモデルに転換することで、イケアの家庭用品をどこからでも試すことができます。

 これは家のデザインを民主化するツールであり、ゆえに誰にでも使えなくてはなりません。iPhoneであれアンドロイドであれ、どのスマートフォンからでも利用でき、使い方も十分に簡単であることが必要です。

 新しいテクノロジーによって、従業員を代替するのではなくサポートするということについて、リーダーとしてどうお考えですか。

 イケアの自動化やデジタル化と言うと、人間らしさから大きく遠ざかるように響くこともあるかもしれませんが、実際にはその反対です。社員には好きな仕事にもっと従事してもらい、以前には不可能だった別の新しい仕事を学んで挑戦してもらえるよう後押ししています。いまの私の仕事の多くは、社員を反復作業から解放するために再教育し、さまざまな役割を遂行できるよう支援することです。

 このようなプロジェクトでは、当然ですが誰もがパンデミックによって計画の変更や加速を迫られました。あなたの場合はどのような体験をして、何を学びましたか。

 パンデミックの期間を通じて多くを学びました。そして多くの課題が残っています。ですが、カギとなるのはレジリエンス(再起力)であり、けっしてやめないことです。どんな問題でも解決する強さを、組織に与えることです。現在の当社が強いポジションにあり、常に成長と向上を目指しているのは、これまで築いてきたレジリエンスのおかげなのです。

【注】
本インタビューは発言の主旨を明確にするために編集・要約を行っている。


"Inside IKEA's Digital Transformation," HBR.org, June 04, 2021.