実質的に、イケアにとってDXとは何を意味するのですか。それによって会社のDNAはどう変わるのでしょうか。

 イケアのDNAは変わりません。変わらないという事実が大事です。オペレーションモデルの面では、データを加え、スピードを上げ、すべての意思決定にアナリティクスを活かすことがDXの意味合いです。活用するスキルも変わっています。

 イケアでこの仕事を始めた時、上司のジェスパー・ブローディンからこう言われたことを思い出します。「我々はすべてを――ほぼすべてを変える」。私にとってその意味は、当社は物事のやり方を変えるけれど、会社の精神は変えないということです。

 抜本的な変革を実行しながらも、会社のビジョンについては一貫性が保たれるようにする。その方法について、もう少し詳しく説明してください。

 私たちはまさに未来のために、イケアを再構築しています。これは当初から、変革を通じてイケアのDNAを完全なまま維持する必要があることを意味しています。DNAとはつまり、多くの人々にとってよりよい日常生活を創出するという文化、価値観、ビジョンです。

 では、それらをデジタル環境で表現するにはどうすべきか、という問いが生じました。そこから、人間中心のテクノロジーという概念につながります。

 テクノロジーを通じて、倫理的な行動を組み込み、ダイバーシティを尊重し、バイアスを廃して人々に公平に接するにはどうすればよいか。これは、当社がデータによって「何ができるか」ではなく、「何をすべきか」をより重視しているという意味です。

 イケアは78年間にわたり、人々の家に迎え入れられるという特別な機会と恩恵を通じて、消費者の信頼を獲得してきました。その信頼は大きなものです。それよりさらに大きくとは言わずとも、同じレベルの信頼を、デジタルの世界でも築くことが当社の望みです。

 デジタルの世界では、データが人々にとって必要十分な敬意をもって扱われていないことは当社も承知しており、人とプライバシーを中心に置く新たな方法に取り組んでいます。その第一歩は、最も根本的な問いを自問することでした。人々は個人データについて――特に、自分が企業とのインタラクションをいつ、どのように行うかに関して――より多くの主導権を握っている場合、どう反応するのだろうか、と。

 この問いに対して当社が最初に取り組んだのは、「カスタマー・データ・プロミス」、つまりデータドリブンなプロセスのすべてにおいて、人を最優先にするという約束です。個人データに関する理解、主導権、意思決定権を顧客側に提供したいのです。そこで、アプリ内で消費者が個人データをいつでも編集できる機能を追加しました。アプリ内の一元化されたデータ管理パネルで、インスピレーション・フィードの変更やパーソナライズをしたり、個人のデータ設定に基づいてアクセスしたりできます。

 これまでの観察結果として、第1に、より適切なデータが集まるようになりました。どのデータを企業と共有するかを人々が自分で決めれば、企業が得るデータは、彼らのニーズにより見合ったものとなります。第2に、信頼が高まり、したがってエンゲージメントが増え、再訪問とインタラクションも増えています。

 あなたがグーグルで得た経験は、イケアでのDXという任務を考えるうえでどう影響していますか。

 私はテクノロジー業界で20年以上にわたり、多くのイノベーティブな会社で働いてきました。その間、すべての経験から学びを得て、現在のイケアでの変革に活かしています。

 特にグーグルを考えてみると、重要な学びとして挙げたいのはスピード、敏捷性、徹底した顧客重視です。未知の中で製品をどう生み出すかを考える時に非常に重要なのは、素早くイテレーション(反復)し、そのイテレーションから学び、消費者にフィードバックの機会を提供することです。そうすれば、顧客と一緒に少しずつ製品をつくっていくことになります。

 グーグルで得たもう一つの学びは、会社が持つ最も重要な資産は人材だということです。社員を大事にして、適切なスキルを確保しなければなりません。

 私がイケアに惹かれたのはこの部分で、常に人が第1とされ、事業において何よりも優先されます。最近では、これまでになかったスキルの持ち主を採用し、多くの社員に再教育もしています。だからこそ皆で一丸となって、ウェルビーイングに配慮しながら学習と成長を続け、パフォーマンスの高いチームになれるのです。

 最後に学んだのは、パーパスです。グーグルで私は、自分が人々の生活を向上させているという深い信念を持ちながら会社に出勤していました。当時の私たちは、人々へのテクノロジーの貢献に革命をもたらしていましたからね。

 それと同じ感覚を、イケアでも感じるのです。変革を進める中で、この感覚に大いに助けられています。困難な時期が来ることを我々は知っているけれど、目の前の現実を超えた、大きな目標があることも知っている。この思いがあってこそ、私たちは次世代に向けてイケアを築くためにエネルギーと情熱を注ぐことができるのです。