オンラインで注文した商品を非接触で受け取ることができる「クリック・アンド・コレクト」商品を探す従業員の様子。2021年1月12日、ドイツ・デュッセルドルフのイケアストア。
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家具や雑貨の店舗販売というアナログな事業を展開してきたイケアは、数年前からデジタル化に舵を切り、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進している。同社のDXを主導するのが、チーフ・デジタル・オフィサー(最高デジタル責任者)を務めるバーバラ・マーティン・コッポラだ。本稿では、イケアのようなレガシー企業で変革を実行する際の課題と解決策について、コッポラに聞いた。


 世界で最もよく知られた小売ブランドの一社にとって、デジタル化とは何を意味するのだろうか。

 イケアはおよそ80年にわたり、独自のブランドを冠した家庭用品を人々に売るという、きわめてアナログな事業を営んできた。3年前にイケア・リテール(インカ・グループ)は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を主導し同社の歴史を新たな時代へと進める旗振り役として、バーバラ・マーティン・コッポラを招き入れた。グーグル、サムスン、テキサス・インスツルメンツでの経験を持つベテランである。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』はマーティン・コッポラにインタビューを行い、レガシー企業の変革に特有の課題や、ほぼすべてを変える中で企業文化をどう維持するのか、そしてハイテク業界での20年の経験がこの任務にどう役立っているのかについて話を聞いた。

HBR(以下太字):イケアではDXによって、日々の実際のオペレーションがどのように変わっていますか。

コッポラ(以下略):実務面では、eコマースの割合を3年で約3倍に増やしました。店舗をフルフィルメントセンターとしても機能させるよう転換したのです。

 これを実現するために、商品の流通、供給体制、さらには店舗の間取りも変える必要がありました。eコマースは1日24時間営業で、従来型店舗はそうではないため、1つの空間で2通りのスピードで運営する方法を学ばざるをえなかったわけです。商品は店からも、ほかの配送センターからも配達できるようになり、供給元を判断するうえでアルゴリズムが役立っています。当社はデータとアナリティクスを急速に拡張しており、それらを意思決定に組み込む方法も変えています。

 パンデミックを受けて、店舗の約75%を一時閉鎖した当社では、社員がオンラインに目を向けてデジタルソリューションに取り組み、勢いとスピードをいっそう増しています。通常ならば数カ月から数年を要していたことが、数日から数週間で実行されるようになりました。

 DXは、それ自体が目的なわけではなく、技術だけの問題でもまったくありません。私たちはビジネスを変革しています。顧客にとって新たな可能性を持つ製品・サービス、それらを届ける新しい方法、事業を運営する新しい方法を模索しているのです。

 それを達成するには、イケアのあらゆる側面にデジタルが組み込まれる必要があります。デジタルとは働き方であり、意思決定と会社運営の方法なのです。

 そのプロセスを通じて、何を実現したいのでしょうか。

 当社のミッションを実現するためには、時流に適応し続けながら、常に変わりゆく顧客のニーズに合わせで進化する必要があります。

 このプロセスは氷山に少し似ています。氷山の上の部分は、顧客のニーズとそれに対する適応です。顧客とのインタラクションと新たな購入プロセスにまつわるすべてを改革します。そして水面下では、ビジネスとオペレーションのモデルを大々的に変えています。この水面下での変革は、目に見える上の部分よりもはるかに大きいのです。

 1つ例を挙げると、当社は顧客とのインタラクションをデジタルと店舗の両方で改革し、双方をつなげています。たとえば、あなたは自宅でイケアのウェブサイトを見ながら、自分でキッチンを新しくする計画を立て始めるかもしれません。その後、店舗を訪れてもいいですし、当社のリモート・カスタマー・ミーティング・ポイントに接続すれば、あなたがいる場所で私たちが対応できます。

 別の例として、イケアのアプリ内に「Shop & Go」という機能があります。まだ数カ国でのみ利用可能ですが、自分のモバイルデバイスを使って商品をスキャンして支払いができ、店内でレジに並ぶのを省略できます。

 これらを実現するには、イケアのあらゆるテクノロジー環境を全面的に刷新し、再構築することが求められます。購入される商品のフルフィルメントについても、新しいオペレーションの方法が必要です。バリューチェーン全体の再構築も不可欠で、これはデータによって管理され、以前より柔軟でなくてはならない。結果として、シームレスで一貫性のある顧客体験になることを目指しています。

 これらの変革は社内の多くの階層で進んでおり、数年単位の戦略と、追求すべき明確な目標を必要とします。

 そのプロセスを進める中で、戦略はどう変わっていったのでしょうか。初期にはどのように展開すると思っていましたか。途中で驚いたこと、変化したことは何ですか。

 あらゆる取り組みにデジタルを組み込む必要性を当社が認識していくにつれて、戦略の幅が徐々に大きく広がっていきました。最初に焦点を当てたのは顧客との全接点の改革で、特にオンラインを重視し、より新しく優れたナビゲーションと検索機能を備えました。eコマースの売上高は3年で7%から31%に増え、高成長を確保しました。

 在庫管理、物流、フルフィルメント、サプライチェーンも、全体的にデータによって刷新する必要があり、そうすることで新しい働き方とオペレーション方法が生まれました。店舗がフルフィルメントセンターになったのもその一例です。また、アジリティ(敏捷性)の向上につながる新しいスキルと人材も取り込んでいます。