●当事者意識を喚起する

 ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のケイティ・ミルクマンが主導し、数十人の研究者が参加した2020年の大規模研究は、テキストメッセージに簡単な変更を加えるだけで、インフルエンザワクチンの接種率を高められることを実証した。

 リマインダーに「あなたの分のワクチンを取ってあります」という文章を含めると、「インフルエンザワクチンを打って自分を守ろう」という標準的なメッセージに比べて11%も接種率が上昇したのだ。

 これは、行動科学者が「授かり効果」と呼ぶものが働いているからだ。人間は、アイデアであれアイテムであれ、「それは自分のものだ」と当事者意識を感じるものに対して、より高い評価を与える。

 ジャージー政府が市民に対して、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の順番が来たことを知らせるメールやメッセージを送る際も、筆者らはミルクマンの研究を参考に同様のアプローチを採用した。読み手に所有者意識を与えるために、「あなたの分のワクチン」という表現を用いたのだ。

 このアプローチは、ビジネスの場面でも利用できる。新しいイニシアチブやプログラムについて知らせる時、多くの人々に向けて一般的な恩恵に注意を促すのではなく、説得しようとしている相手に直接恩恵をもたらす投資として位置づけることで、参加のきっかけにするのだ。

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 本稿で紹介した3つのアプローチは、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種プログラムのみならず、オーディエンスを効率的かつ上手に関与させる必要性が高い、あらゆる企業や組織にとって有効であると同時に、実際に効果的かつ簡単に実行できるものだ。

 説得力は必ずしも論理や道理ではなく、個人的心情から得られる。それだけ覚えておけばよい。


"How One British Isle Persuaded Its Citizens to Get Vaccinated," HBR.org, June 04, 2021.