●「~だから」という表現を駆使する

 ハーバード大学教授で心理学者のエレン・ランガーは、1970年代の有名な研究で、「なぜなら/~だから」(because)という表現に大きな説得力があることを証明した。

 コピー機の順番を待っている人に「すみません、5枚なのですが、先にコピーを取らせてもらえませんか」と頼むと、60%が「どうぞ」と順番を譲ってくれる。ところが、この要求に理由を付け加えると、承諾率は大幅に上昇する。「すみません、5枚なのですが、急いでいるので、先にコピーを取らせてもらえませんか」といいう聞き方にすると、94%が承諾してくれるのだ。

 興味深いのは、付け足す理由がまったく無意味な場合であっても、この方法が有効なことだ。たとえば、「すみません、5枚なのですが、コピーを取らなければいけないので、先にコピーを取らせてもらえませんか」という頼み方でも、ほぼ同じ割合の人が「どうぞ」と答えている。

「なぜなら/~だから」という言葉には、相手がその要請に応じるモチベーションを高める効果があること、さらにそこで示される理由は良質なものだという類推を強化し続けることを、この研究は見事なまでに示している。

 研究から50年が経過した現在も、このアプローチは依然として有効だ。最近ではほとんどのメッセージが、私たちが無意識にスクロールする画面に直接届けられるため、実際に注視されるメッセージはごく一部になっている。そこで「なぜなら/~だから」という言葉を利用すれば、そのメッセージには理由付けが存在することを人々に喚起できる。

 とはいえ、「なぜなら/~だから」という言葉が目を引くからといって、理由そのものはさほど重要ではないという意味ではない。そこで筆者らは、「なぜなら/~だから」に加えて「理由」を提示する2段階戦略を取ることにした。

 まず、ワクチン接種を推進するメッセージを複数用意し、「なぜなら/~だから」という言葉を太字にして目立たせた。次に、それぞれのメッセンジャーが大切にする個人的理由を示し、読み手の心情に訴えるようにした。

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ジャージー政府から利用許諾を得た画像。

 これは、ソーシャルメディアのように大量のノイズがある場所で、オーディエンスを説得したい場合にも当てはまる。すなわち、メッセージに「なぜなら/~だから」という言葉を使うこと、そして相手の心情に訴える理由を提示することだ。