●適切なメッセンジャーを選ぶ

 自分のアイデアや提案に誰も耳を傾けてくれない時のフラストレーションは、誰もが経験したことがあるだろう。さらに、同じアイデアや提案を別の人が出した時に、たちまち全員が「これまでで最高のアイデアだ」と絶賛したならば、フラストレーションを通り越して腹が立つこともある。

 よくあるこのシナリオは、人が何らかの意見に耳を傾けるか否かは、その内容ではなく、誰が言っているかによって決まることが多いという説の好例だ。

 これには、もっともな理由がある。私たちは日々、膨大な量の情報と格闘している。その中には矛盾する内容も多い。人間の脳は、物事を手っ取り早く処理する方法を見出すのに長けている。さまざまなつながりや類推に基づき、自分が耳を傾けるべき人や無視しても構わないと思える人を区別する能力も、その一つだ。

 こうした判断は、ミリ秒単位で無数に下されている。その基準となるのは、メッセージの真実味や見識ではなく、メッセージを届ける人が持つ「この人の話は耳を傾ける価値がある」と思わせる特質だ。

 たとえば、「エスカレーターでは手すりにつかまること」という警告は、子どもが発したほうが高い効果が得られる。なぜなら、子どもの声によって脆弱性が示唆され、「注意しなくてはいけない」という意識が喚起されることが多いからだ。

 これに対して、アフリカのエイズ撲滅キャンペーンでは、「相手にコンドームの着用を求めるべきだ」と女性を説得するには、医師よりも美容師のほうが有効であることが明らかになっている。これは、美容師のほうが「自分と同じような仲間から聞いた」という感覚を得られるからだ。

 脆弱性であれ類似性であれ、どちらの場合においても決定的な影響を与えたのは、メッセージを伝える人が持つ特質であり、メッセージそのものではない。