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伝統企業がデジタルトランスフォーメーションの実現を迫られる中、「社内起業家」が中心となり変革に乗り出す組織が増えている。だが、その取り組みがうまくいかないことは多い。社内起業家は市場だけでなく他部署との激しい競争にもさらされるため、事業成長に必要な支援を得られなかったり、正当に評価されなかったりということが珍しくないからだ。この課題を解決するために、筆者らは「ベンチャー・バイアウト」の導入を提案する。ベンチャーキャピタルの資本と優れたノウハウを借りることで、社内発のイノベーションを後押しすることができる。


 近年、アマゾン・ドットコム、アルファベット、アリババなどのいわばデジタルネイティブ企業が目覚ましいペースで成長するのを目の当たりにして、伝統企業もデジタルトランスフォーメーション(DX)に莫大なエネルギーと資金をつぎ込むようになっている。

 その種のプロジェクトは、意欲的な「社内起業家」(イントラプレナー)が主導する場合が多い。既存企業の中で新しいデジタル関連のベンチャー事業を立ち上げる社内起業家たちは、上層部に初期投資に踏み切らせることのできるビジョンを持っていて、説得力のある主張を展開する。魅力的なデジタル関連の取り組みを推進したいという上層部の思いも、こうした活動を後押ししているのだろう。

 しかし、このような社内起業家モデルにはいくつかの障害がある。しかも、障害の多くは見落とされていたり、実際よりも軽く考えられていたりする。

 まず、経験豊富なベンチャーキャピタリストによって、事業計画や会社の実力を厳しく精査されて、ほかの多数の投資対象と比較される一般のスタートップ企業と異なり、社内ベンチャーはしばしば、厳しい市場テストが要求されないまま立ち上げられてしまう。

 社内ベンチャーは最初の予算を獲得したあとも、追加の資源(資金や人材)を獲得するために、絶えず厳しい戦いを続けなくてはならない。この点では、社内のほかの部署との競争になる。

 社内には、もっと短期的な好材料を持っていたり、もっと社内の支持を得ていたりする事業があるかもしれない。既存の事業部門は、自分たちが苦労して稼いだ金を、成功の見通しがはっきりせず、地に足のつかない事業に奪われることをよく思わない場合もあるだろう。

 新事業が収益を上げ始めても、社内であまり評価を得られないケースもある。社内ベンチャーが年間売上高1億ドルを達成したとしよう。これは、スタートアップ企業であれば目を見張る成績だ。企業価値評価が急上昇してもおかしくない。しかし、年間売上高100億ドルの既存企業の場合、売上げは1%しか伸びないのだ。

 社内起業家たち、そして社内ベンチャーをつくる企業にとっては、これまでとは異なる新しい資金調達のメカニズムがあれば好ましいだろう。筆者らは、そのようなメカニズムとして「ベンチャー・バイアウト」(VBO)と名づけた仕組みを提案している。

 VBOの仕組みを採用することにより、既存企業は、ベンチャーキャピタル業界の強力なエコシステムを活用して、新しい会社を築くことができる。また、既存企業は、大掛かりなイノベーションを成し遂げ、大きな経済的リターンを獲得することが可能になる。そうしたイノベーションと経済的リターンは、市場の勢力図を塗り替えるライバル企業が急成長する原動力になっているものだ。