書籍『世界標準の経営理論』著者の入山章栄氏がその執筆過程で感じたのが、世界の経営学とはまた異なる、日本の経営学独自の豊かさやおもしろさであった。日本の経営学には日本企業の強みに根差した知見や、独自の視点が数多くあるのではないか――。そんな思いを胸に入山氏が日本で活躍する経営学者と対談し、それぞれの研究やアイデア、視点を交換することで生まれる化学反応を楽しむ新連載がスタートする。

第1回では、ものづくり研究の第一人者である藤本隆宏氏に登場いただく。実は藤本氏は長く勤めた東京大学を離れ、2021年4月から早稲田大学ビジネススクールの教授になったばかり。入山氏の同僚になった形だ。同僚になっての2人の初対談として、前編では、変革前夜とも言われる自動車業界の展望について、入山氏が藤本氏に伺った(構成:田中裕子、写真:鈴木愛子)。

トヨタにも影響を与え続けるアーキテクチャ論

藤本:『世界基準の経営理論』、読ませていただきました。経営学はインターディシプリン(異なる学問分野にまたがること)である、とはっきり書かれているのが良かったですね。経営学は単一の学問か。これ自体が長年の論点ですが、私は経営学というより産業の社会科学をやってきた人間だし、アメリカで経営学教育を受けてきたので入山さんの御見解に違和感はありません。

藤本 隆宏(ふじもと・たかひろ)
早稲田大学 大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
1979年東京大学経済学部卒。三菱総合研究所、ハーバード大学博士課程を経て、1990年~2021年東京大学経済学部助教授・教授・ものづくり経営研究センター長。専門は技術・生産管理、進化経済学。日経図書文化賞、組織学会高宮賞、新郷賞、日本学士院賞・恩賜賞、日本建築学会著作賞等。主な著書に『製品開発力』(ダイヤモンド社)、『生産システムの進化論』(有斐閣)、『生産マネジメント入門』(日本経済新聞出版)、『日本のもの造り哲学』(日本経済新聞出版)、『能力構築競争』(中央公論新社)、『現場から見上げる企業戦略論』(KADOKAWA)。

入山:ありがとうございます。ものづくり研究の第一人者である藤本先生にそう言っていただけて嬉しいです。しかも実は、藤本先生は私が新卒で入社、配属された三菱総合研究所で自動車業界の調査・研究の担当部署を設立した方でもある。私は藤本先生が三菱総研を辞められてから、そこに入ったわけですが。その当時からリスペクトしていたので、連載第1回に藤本先生をお呼びできて、本当に光栄です。しかも、早稲田ビジネススクールで同僚になったのも、とても嬉しいです。

藤本:入山先生も自動車業界担当でしたか。

入山:はい。私が三菱総研に所属していたのは1998年から2003年ですが、藤本先生の思想はしっかりと息づいていました。実は私は、入社1年目の時に藤本先生の講演に何度か足を運んだことがあり、勝手に学んでいたのです。不遜ながら、「こんなに頭のいい人が世の中にいるんだ!」と感銘を受けたのを覚えています(笑)。

藤本:恐縮です。声をかけてくれればよかったのに。

入山:藤本先生の考えで特にインパクトがあるのが、2000年ごろに発表された「製品や生産設備にはそれぞれ<アーキテクチャ>、つまり設計思想が存在する」という考え方です。これはアカデミアでは大変有名ですし、日本中のものづくりに関わっている実務家の多くが知っています。ただ、改めてそれは何かとごく端的に言えば、どのような製品も、(1)部品などの構造と機能が複雑に絡み合った、最適設計を要する「インテグラル(擦りあわせ)型」と、(2)構造と機能が一対一でシンプルに対応し、設計調整を節約できる「モジュラー(組み合わせ)型」を両端としたどこかに位置付けられる、というものだと理解しています。

画像を拡大
出所:http://merc.e.u-tokyo.ac.jp/mmrc/dp/pdf/MMRC238_2008.pdf
大鹿隆「製品アーキテクチャ論と企業行動・経営活動の実証分析」2008年10月。図1より藤本隆宏氏が作成。

 私が三菱総研にいた時代にトヨタの方と仕事をした時にも、同社の幹部の方々が自動車のモジュラー化について、まさにこのアーキテクチャ視点で議論を交わしていました。いかに先生の考え方が先進的かつ普遍的だったかを実感たのを覚えています。

 今日はこうした考え方のベースを伺いつつ、最近のものづくり企業、特に自動車メーカーへの評価なども伺ればと思っています。