「仕事に人を振る」効果とは

 ここまで二つの事例で、「仕事に人を振る」方法を伝えてきた。どちらも、それまで人を軸に仕事を割り振り分け、属人化が進んでいた状態を、「仕事に人を振る」状態へと変化させた。結果、「予定外の仕事」をマネジメントできるようになり、忙しさが軽減されるだけでなく、副次的な効果も生まれた。整理すると下記のようになる。

●仕事の生産性がアップし、忙しさが軽減する

 これまで見てきたように、チームで仕事にあたるため、仕事の完了スピードが向上しつつ、労働時間は減少し、生産性が上がる。

●組織が予定外の仕事に強くなる

 タスクに人を寄せるために、同時並行で進行するタスクは減り、突発的な事態に対応しやすくなる。

●仕事の質が安定する

 同時進行の仕事が減り、リーダーの過負荷が軽減されることにより、リーダーがタスクを日々管理する余裕が生まれるため、仕事の納期を守れるようになる。しかもチームであたるので仕事の質は、個々の意欲やスキルに左右されずに安定する。

●従業員の意欲が高まる

 本来、従業員が集中すべき仕事に集中する時間が確保できるので、モチベーションが上がりやすい。

●ノウハウ共有や教育につながる

 高いスキルの人と低いスキルの人が混在することで、ノウハウの共有が起こる。さらにOJTで仕事を覚えられるため、新人への教育効果も見込める。

バーンアウトしない働き方の先へ

 筆者の1人で、ウェルビーイング(Well-Being)研究に従事する石川は、職場のウェルビーイングの実現には、今回紹介したような、ウェルドゥーイング(Well-Doing: 生産性や収益性)の議論が欠かせないと考えている。バーンアウトを防ぐため、職場のウェルビーイングを目指そうとしても、それを実現するHOWのメソッドがなければ、現場の状況は変わらない。むしろ、ウェルビーイング対策に追われて、忙しさが増して状況がさらに悪化しかねない。

 現状、多くのリーダー層は、マルチタスクの得意な部下や、やる気のある部下に仕事を委ねて、「期限を守れ」と発破をかけて生産性を上げ、マネジメントしたつもりになってはいないだろうか。もちろん、それがこなせる稀有な人材もいる。だが、任された部下の多くは、予定外の仕事をこなすために無理をする。本来やるべき仕事の遅延につながり、全体へ悪影響を与え、再び納期を守ろうとする社内外の圧力がかかるという悪循環に陥るのだ。

 これまでの研究から、マルチタスクがウェルビーイングを悪化させると報告されている。また忙しくなって、自分でコントロールできない予定外の仕事が増えると、充実感や達成感を得ることができず、士気が下がり、バーンアウトにつながりやすいこともわかっている。予定外の仕事を任せられる人とは、職場でも使命感や責任感が高い人ではないか。そういう人ほど仕事に熱心に打ち込むため、バーンアウトするリスクも高い。多忙を極めた有能な人材は徐々に心をすり減らし、プロジェクトは失速し、失敗へと向かうのである。

 強い組織を目指すのであれば、「人は弱い」という前提で、この悪循環を断ち切る仕組みが必要である。特にリモートワークが浸透し、部下の仕事が見えにくい今こそ、忙しさを解消する仕組みをつくらなければならない。人のやる気や能力に依存せず、「仕事に人を振る」ためには、人を管理するのではなく、タスクを管理して、プロジェクトの進捗をきちんと追うべきなのだ。

 以上、忙しさに対処するため、「仕事に人を振る」というコンセプトの持つ意義について述べてきた。バーンアウトしないことを目指すのではなく、その先にあるよりよい働き方を実現するためにも、今後も筆者らは研究と実践を積み重ねて、この考え方を深めていくつもりである。

 

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