時間をかけて検討する

 ここまでに挙げた誤った発想の根底にあるのは、3つの不適切な考え方だ。

 1つは、多忙な中で、意思決定に時間をかける必要はないという思い込み。もう1つは、自分には合理的な思考を行う能力があり、手ごわくて重要な問題を自分の頭で解決できるという思い込み。そして、もう1つは、意思決定は個人的なものであり、他人を関わらせる必要はないという思い込みだ。

 この3つの考え方はすべて間違っていて、明晰な思考と分析を妨げる。人間はコンピュータではない。それに、人間はコミュニティの中で生きる社会的動物だ。そして、意思決定をゆがめる無意識のバイアスに対処し、物事を大局的に見るために、内省の時間が不可欠だ。

 バイアスの影響を抑え込むための一つの方法は、思考のスピードを減速させることだ。戦略的に一歩立ち止まり、物事の全体像を見て、いま自分を取り巻く状況について、じっくり考えることが有効なのだ。思考を減速させることにより、本稿で挙げたような誤った発想に陥ることなく、条件反射的な行動も避け、意思決定の有効性を高めることができる。

 筆者はこのような戦略的休止を「チーターの一時停止」と呼んでいる。チーターの傑出した狩猟能力は、単なるスピードの賜物ではないという。チーターはスピードを減速できるからこそ、恐ろしいハンターなのだ。

 チーターはたいてい時速100キロの猛スピードで獲物を追いかけるが、瞬時に時速15キロ程度まで減速できる。それにより急激な方向転換をしたり、横にジャンプしたりすることが可能になっているのだ。

 意思決定も同じだ。質の高い思考を行うためには、慎重にスピードを落とすことが好ましい。意図的に思考を減速させることで、自分のバイアスを確認してその影響を和らげ、十分な情報を集め、意思決定にほかの人たちを関わらせ、方向転換が必要かどうかを見極めることができる。そのあとで、再びスピードアップすればよい。

 チーターの一時停止を実践している時に、自問すべき問いを5つ挙げておこう。

1. この意思決定を行うにあたり、自分はいま、どのような誤った発想の影響を受けているか。
2. この意思決定により、自分は人生の目標にどのくらい近づけるか。
3. この意思決定についての自分の感情は、実際に起きていることの影響を受けているか、それともこれまでの行動パターンの影響を受けているか。
4. この意思決定の質を高めるために役立つ情報には、どのようなものがあるか。
5. この意思決定に関係があるほかの人たちの感じ方や視点への理解を深めるためには、どうすればよいか。

 今度、意思決定を急ぎたくなった時は、チーターの一時停止という言葉を思い出して、戦略的な停止を実践しよう。そうすれば、あなたは意思決定に関わる誤った発想を乗り越え、バイアスの影響を取り除き、意思決定のスキルを高めることができる。

 複雑な意思決定を行う際に、自分にとって最適な判断を下すためには、「木を見て森を見ない」思考を脱却しなくてはならない。そのためのツールを持っているのは、あなたの手の中のスマートフォンではない。あなた自身である。


HBR.org原文:11 Myths About Decision-Making, April 20, 2021.