ゼロパーティ・データの台頭

 では、クッキーをめぐるプライバシーの問題(および高まる規制の壁)に阻まれることなく、データドリブンなターゲティングの恩恵を活用するにはどうすればよいだろうか。答えは、「ゼロパーティ・データ」と呼ばれる概念にある。

 サードパーティ・データはクッキーを通じて収集され、人々の幅広い人口統計的セグメントに関して企業が推論を立てるために使われる。これとは対照的にゼロパーティ・データは、個々の消費者から直接、意図的かつ積極的に提供される情報を指す。

 具体的には、多くのブランドは投票、クイズ、懸賞付きアンケート、インタラクティブなソーシャルメディアのストーリーなどを利用して、オプトイン(ユーザーが事前に了承済み)であることが明白なデータを収集し始めている。これらのデータは、消費者の嗜好に関する非常に具体的な知見をもたらす。

 こうした形でのデータ収集は、双方にとってメリットとなる。顧客に対しては、実際にどのデータが収集されるのかに関して高度のコントロールと透明性が付与される。一方の企業側は、格段に有益な情報へのアクセスが可能となり、パーソナライズした提案をいっそう効果的にターゲティングできるようになる。

 このようなシステムを立ち上げる際には、クッキーの問題はパーソナライズではないという点に留意しておくことが重要だ。問題は、消費者のプライバシーに対する尊重の欠如であり、顧客や企業に有益な情報を実際には大してもたらさないパーソナライズ手法である。

 消費者はパーソナライズされた提案への関心を強めていて、ゼロパーティ・データはクッキーにはけっしてできなかった形で(プライバシーの問題を伴うことなく)、格段に優れたパーソナライズを提供できる。実際、世界各地の回答者5000人を対象とした最近の調査では、パーソナライズされた提案に関心を持つ消費者の数は2020~21年の間に33%増えている。

 顧客は、自分のニーズに適切にマッチングされた広告や製品提案を受けると満足する。自分のデータが不透明かつ安全でない方法で収集され、最も高値を付けた相手に売られるような事態を望まないだけだ。ゼロパーティ・データを用いれば、顧客はどの情報を誰と共有するかを管理でき、透明性の向上とより効果的なパーソナライズが可能になる。

 一例を挙げよう。筆者は法人向けのマーケティング・プラットフォームであるチーターデジタルで、コンテンツ・アンド・データ担当バイスプレジデントを務めている。筆者が支援したある企業は2018年初期、従来型のターゲット広告からゼロパーティ・データ戦略に方向転換した。同社は3年の間に300件以上の懸賞施策を実施し、75万人のユニーク参加者にリーチし、1500万以上のデータポイントを収集した。

 消費者は、どの製品を購入したいか、その製品に使える予算はいくらか、どの経路で購入したいか、いつ購入したいかに関する情報を自主的に提供してくれた。同社はそれらの詳細なデータセットを活用し、ダイナミックで極度にパーソナライズされたメールやSMSのキャンペーンを立ち上げた。

 これらのキャンペーンは開封率50%超、クリック購入率は約20%を達成し、以前のクッキーを利用したキャンペーンに比べて前者は250%増、後者は33%増となった。

 加えて、同社はこのデータを基に、広告キャンペーンの対象として粒度が非常に高いユーザー層を50以上も特定した。その結果、グーグルとフェイスブックのインタレスト・ターゲティングのツール(ユーザーの興味・関心に基づいて広告を配信するツール。主にクッキーからのデータを利用)を用いたキャンペーンに比べ、エンゲージメント率が平均5.7倍増えたのである。

顧客エンゲージメントの未来

 ゼロパーティ・データは今日すでに使われ、普及の一途をたどっている。

 より透明で安全なユーザー体験を求める消費者の声は高まっている一方、極度にパーソナライズされた体験への期待もかつてなく強まっている。同時に、規制環境は厳しさを増しているため、現状維持は難しい。クッキーは廃れつつあり、時流に遅れたくないマーケターはゼロパーティ・データという手法への投資にますます注力している。

 事実、フォレスターの最近のレポートによれば、CMO(最高マーケティング責任者)の4人に1人は、2021年の終わりまでにゼロパーティ・データのケイパビリティを導入するつもりだという。筆者が関わってきた大小多数の企業は、クッキーに頼ったターゲティングではなく、顧客の自由意志で提供された詳細なデータを活用するために、マーケティング・キャンペーンの見直しを断行している。

 これは小さな技術的変更のように思えるかもしれないが、顧客のデータに関する企業の思想を根本から変えることを意味する。クッキーは裏側で機能し、情報を受動的に収集し、往々にして不透明かつ無節操な形で使われる。しかしゼロパーティ・データは、より高度のパーソナライズと、エンドユーザーの管理権限の強化という両方を可能にするのだ。

 最終的にゼロパーティ・データは、ターゲット広告やメールキャンペーンの新手法というだけにとどまるものではない。自社の最も貴重なステークホルダーである顧客と、どう関わり合い、どう敬意を示すのか――その方法を変革することなのだ。


HBR.org原文:Say Goodbye to Cookies, April 08, 2021.