筆者らは、コロナ禍以前から、このような変革に向けて真剣に努力してきた十数社以上の企業を調査してきた。それらの企業は、数十年間で最悪の景気後退と公衆衛生危機の渦中にあっても、その努力のペースを緩めていない。このような企業の経験は、もともと行っていたことをデジタルに移行させることしか関心がない企業とは好対照と言ってよい。

 筆者らが調査した企業の一つは、フィリップスだ。同社はコロナ禍以前の段階ですでに、未来を見据えて、製造業中心のコングロマリット企業であり続けるのではなく、医療テクノロジー関連のサービスとソリューションに特化した企業への転換を目指す方針を打ち出していた。

 そのために創業の原点である照明機器事業を切り離すなど、大量生産した商品を大量に販売するビジネスからの転換を推進してきた。代わりに、ハードウェア、ソフトウェア、データ、臨床関連の専門知識、人工知能(AI)によるインサイトを集約することを通じて、医療サービスの質を向上させ、コストを引き下げるのを支援するビジネスに軸足を移そうというのだ。

 新型コロナウイルス感染症の流行が深刻化すると、フィリップスはただちに新しい人工呼吸器を設計・大量生産しただけでなく、それを補完するバイオセンサーの供給も始めた。これは患者の情報を遠隔モニタリング・プラットフォームに送り、感染力の強い新型コロナウイルス感染症の患者を安全に治療できるようにするためのものだ。同社はまた、オランダの医師が利用できるオンライン・ポータルを導入し、医師たちが患者データを共有できるようにした。

 コロナ禍による需要減でフィリップスのビジネスは大きな痛手を被ったが、新しいビジネスのやり方を実践し始めていたおかげで、ソリューション・ビジネスへ素早く方向転換できた。それにより2020年末の時点で、同社は安定的に売上げを伸ばせるようになっていた。

 建設業は、どうしても有形資産の比重が大きくなり、新しいテクノロジーとは縁遠い業種して知られてきた。だが、コマツは、建設機器の販売からデジタルテクノロジーを活用したスマート建設ソリューションのトップランナーへの転換を推し進めてきた。

 これにより同社の顧客である建設企業は、生産性を飛躍的に向上させ、大きな利益を上げることができている。建設業がこの20年間ほとんど生産性が伸びていない業種であることを考えれば、これは目覚ましい成果と言えるだろう。

 コマツは最初に、顧客が同社の機材をもっと効率的に用いられるようにするために、GPS、デジタルマッピング、センサー、IoT(モノのインターネット)を活用した建設機械を送り出した。以来、同社はデジタル関連の取り組みをさらに推し進めてきた。

 たとえば、ランドログというプラットフォームをリリースして、自社のデータを公開することにより、顧客やライバル企業など、建設関連のエコシステムに属する企業が建設プロジェクトで活動をすり合わせやすくし、プロジェクト全般の生産性を高められるようにした。

 コマツはこのようにコロナ以前にビジネスモデル・イノベーションを実行したことにより、建設ビジネスが停滞する中で、サービスのアウトソーシングと自動化されたプラットフォームを通じて新しい収益源を拡大させ、さらにはコロナ禍の中で新しいサービスの投入を加速させることもできた。

 もう一社がマイクロソフトだ。同社はこの5年ほど、世界最大のソフトウェア企業から、テクノロジーに基づくソリューション(それはハードウェアの場合もあれば、ソフトウェア、サービス、クラウドコンピューティングの場合もある)を提供する企業への転換を図ってきた。そうしたソリューションを通じて、法人顧客と一般消費者がビジネス上の活動や日々の生活を改善するのを助けようというわけだ。

 その一環として、マイクロソフトはそれまでの組織のあり方を刷新し、マスマーケットにプロダクトを売り込むことに主眼を置くのではなく、ソリューションの提供を目指すチームを中心に据えた。部署の垣根を超えてスキルを集約し、それぞれの顧客に合わせたサービスを提供しようと考えたのである。

 マイクロソフトは、自社のパーパスを明確化させ、ソリューション志向のチームを軸に思い切った組織改編を行ったことで、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた時、「世界中の緊急対応チームを支援するデジタル緊急対応チーム」(同社のサティア・ナデラCEOが社員向けのメールで述べた言葉)とでも呼ぶべき存在になることができた。

 コロナ禍で大学の全面オンライン化を支援するなどのソリューションビジネスに牽引されて、マイクロソフトのクラウド事業の売上げは過去最高に達した。このように顧客それぞれのニーズに素早く対応する能力は、10年前のマイクロソフトに不足していたものだった。デジタル分野で先頭を走る企業であったにもかかわらず、こうした面では後れを取っていたのである。