社会課題から入るのではなく、自分たちの思いを起点にする

名和 パーパスをどうあぶり出していくかについて伺います。SDGsやESGがあるので、社会課題から入ろうとする企業が多く見られます。SDGsの17のゴール(目標)を並べて、どれにするか検討するのですが、それではうまくいかないと思っています。

 私は、パーパスを「志」と訳していて、自分の心が本当にそこに向かうことが一番大事だと考えています。自分たちの思いが起点になっていなければ、マーケットインでやろうとしても、なかなかなじまないというケースを何度も見ているので、「社会課題から入るのはよしたらどうですか。あなたたちの志から入りましょうよ」と訴えています。そうすると、17のゴールという規定演技にはない、18番目の自由演技が可能になるからです。

井上 我々がサステナビリティ戦略を語る場合は、SDGsの3番目の目標「すべての人に健康と福祉を」をはじめ、事業活動にあたって環境や社会への負荷を管理するというお話をしますが、極端な言い方をすると、SDGsがなくても、我々がやっていくことに変わりはありません。

 つまり、事業そのものに関連して社会課題が明確に存在するため、それに対して企業として真摯に向き合っていくしかないのです。まったく関係のない社会課題を選んで、それに取り組むことはありません。

宮尾 パーパスをあぶり出していくには、2つのポイントがあります。「360°Value」の話をしましたが、複数の異なる視点を提示してあげること、これが1つです。たとえば、ITの世界ではクラウド化が大きなトレンドですが、クラウド化によって、消費電力や二酸化炭素排出量を減らすことが可能です(注)。別の視点から見た時に、異なる効果が得られることもあり、それをきちんと見つめることによって、結果として社会課題の解決にもつながるケースがあります。

注:詳細は以下のウェブサイトを参照。
https://www.accenture.com/us-en/insights/strategy/green-behind-cloud

 もう1つ、既存事業のペインポイント(痛点)を解決するという軸でパーパスがしみ出てくるケースもあります。顕在化している課題が自社だけで解決できない場合は、エコシステム・パートナー企業や他社など外部と組んで取り組むのも1つの方法です。

パーパスの実現をどう「見える化」するか

名和 パーパスを掲げたときに、その価値に共感した人がパートナーやお客様になってくれます。一方で、エッジの効いたパーパスであるほど、共感を持たない人もいます。パーパスを語ることは、顧客や従業員、株主などのステークホルダーにある種の選択を迫る可能性がありますが、そのバランスについてはどうお考えですか。

井上 煙のない社会を目指して、我々はコンシューマー・ジャーニーという切り口で、変革を進めています。たばこを吸っているお客様の行動変容に尽きるわけです。禁煙される方もたくさんいるでしょうし、やめない人もいらっしゃいます。禁煙がベストチョイスですが、喫煙を続ける意思を持つ1人でも多くの成人喫煙者がベターチョイスに切り替えられるよう、商品そのものをよくしていくことはもちろん、正確な情報をしっかり提供していくことが大切です。

 一度、弊社製品を試したけど好きになれなかったという方も、何かのきっかけで好きになっていただけることもあります。ですから、お客様目線でコンシューマー・ジャーニーを分析し、理解を深めてくださった方々に対して、たばこ会社としてできることを考えていくことが重要だと思います。

宮尾 理解して、同意し、商品を買ってくれる、体験してくれるお客様がベースになるということですね。そこで思い出したのが、我々が会津若松市で支援しているスマートシティ・プロジェクトです。現地の市民・住民の方々の同意を得たうえで、個人データを収集し、地域決済・ポイントや行政手続きの簡素化などに活用し、地域自体をスマート化していきます。同時に、そこで得た匿名化された情報を使って、企業がさまざまなサービスを開発していくというものです。

 こうしたプロジェクトは、いきなり全国規模で展開するのは難しくて、地域は限定されますが、理解を得られる範囲のコミュニティやエリアで始めて、そこでパーパスに賛同する人たちが増えていくことで、だんだん広がっていきます。スマートシティは国のプロジェクトであることが多いのですが、すべてが同じパーパスである必要はありません。異なるパーパスを掲げるスマートシティが切磋琢磨することで、健全な競争が生まれ、全体としての底上げも進むと期待しています。